IMSS

KEK

化学と数学でひもとくベルト状分子の構造

物構研トピックス
2016年6月30日

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の磯部寛之主任研究者(JST ERATO磯部縮退π集積プロジェクト研究総括、東京大学大学院理学系研究科教授)と小谷元子機構長の共同研究グループは、ベルト状分子の持つ構造的特徴を化学的・幾何学的に明確にすることに成功しました。

ナノ材料の代表的な存在、カーボンナノチューブは炭素のシート(グラフェン)を丸めた筒状の形状をした材料で、構造によって半導体/金属型など性質が変わることが知られています。 このカーボンナノチューブと同じ構造的要素を備えたモデル分子を生み出し、その特徴を明確にしようとする研究が世界的に注目されています。 磯部教授らは、芳香族の一つ、ナフタレン(C10H8)を利用し、数珠つなぎのように繋げていくことで6種類のベルト状分子を作りだしました(図1)。

fig1.png

図1 ナフタレンからつくった筒のような構造を持つベルト状分子の柔らかさ。(画像提供:東北大学 磯部寛之)

fig2.png

図2 パネルの数とベルト状構造の柔軟性(画像提供:東北大学 磯部寛之)

ナフタレンは複数の異なる構造(異性体)を持つため、数珠つなぎにした後でも、ナフタレンが自由に回転してしまうと表と裏の入れ替わった別の物質になったりします。こうした要素を加味し、数学の順列と組み合わせの発展形から計算し、繋げる枚数と異性体の数を導きました。次に、構造の丈夫さを調べるため、ナフタレンのパネルが回転しない条件を温度と繋げるパネルの枚数から探しました。その結果、パネルの回転が始まる温度や、回転させるために必要なエネルギーといった重要な性質を定量化することに成功しました(図2)。これにより、パネルが6枚の場合、20℃程度の室温ではパネルが回転しない堅い筒のような構造の存在が示され、ナフタレンをパネルとしたベルト状分子の場合、パネル6枚以下からカーボンナノチューブの円筒状の壁を模した構造を持つことがわかりました。

fig3.png

図3 結晶構造解析から得られたパネル7枚のベルト状分子の分子構造。数値はカーボンナノチューブとしての構造様式を示している。(画像提供:東北大学 磯部寛之)

この構造をフォトンファクトリーのNE3Aを使用した結晶構造解析により、ベルト状に繋がったナフタレンが、筒のような構造であることを確かめました(図3)。

今回の成果は、筒のような構造を保つにはどうすれば良いのかを理解するために最も基本となるデータが得られたと言えます。有機化学と幾何学という珍しい組み合わせによって、初めて成し遂げられた構造と性質の定量化は、今後発展させていくことで、カーボンナノチューブの性質もより深く理解できることが期待されます。


東北大学発表のプレスリリースはこちら

論文情報
掲載誌:米国科学アカデミー紀要(PNAS)
"Stereoisomerism, crystal structures and dynamics of belt-shaped cyclonaphthylenes", DOI: 10.1073/pnas.1606530113

◆ 関連記事

◆関連サイト