KEKつくばキャンパスには、衝突型加速器であるSuperKEKBに電子・陽電子を、2つの放射光リング(PFリング、PF-AR)にそれぞれ電子ビームを供給する、電子陽電子入射器(LINAC)があります。この4つのリングへの同時入射を可能にすることにより、PF-ARでもトップアップモード(常時入射によりリング電流値を一定に保つ運転モード)での放射光実験が可能になります。この春に、4リング同時入射を可能にするために必須な、LINACからフルエネルギーで直線的に電子を輸送するPF-AR直接入射路が完成しました。
これまでPF-ARの入射には、SuperKEKBと共通の入射路を使用して3GeV程度まで加速した電子ビームをPF-ARに入射し、PF-ARで更に6.5GeVまで加速した後に放射光実験を行っていました。この入射路から分離、独立し、6.5GeVのエネルギーの電子ビームを、LINACから直接PF-ARまで輸送するためのビームラインが今回建設されたPF-AR直接入射路です。このビームラインを設置するために、2013年から2014年にかけて、新たに約180mの地下トンネルを建設しました。これと並行して、電気や機械設備、実際に電子ビームを輸送するための電磁石や真空ダクト、それらに付随した様々な機器の設計、製作を開始し、試験運転へ向け準備を進めてきました。
2016年6月30日から約7か月半の間、LINACからPF-AR直接入射路へつながるビームライン設置が行われ、2017年2月13日から試運転を開始しました。試運転初日には、PF-AR直接入射路に電子ビームを通して、蓄積リングまで到達することが確認できました。翌2月14日には、6.5 GeVフルエネルギーでの電子ビームの入射・蓄積に成功しました。約一週間の調整を経て良好な入射効率が達成され、翌週には連続入射で蓄積電流値50mAを保って光ビーム焼き出しを行うことができました。3月1日には、原子力規制庁の施設検査を受け、4月14日からはユーザーによるPF-ARでの放射光実験が再開しました。
春の運転を終えて、ユーザーからは、入射および加速のために必要だった実験の中断時間が格段に短くなったことにより、実験に使える時間が長くなっただけでなく、放射光ビームの安定性も向上して使いやすくなった、という声が聞かれました。
さらに実験の効率を向上するためには、トップアップモードでの運転の実現が待たれます。トップアップ運転実現までには、LINACのエネルギーや電荷量の異なる電子・陽電子ビームを50Hz のビーム毎に高速で切り替える4リング同時入射のための改造や、放射線、機器安全の検討などが必要です。KEKでは、PF-ARのトップアップ運転の早期実現を目指して調整を進めていきます。