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アフリカに放射光を ~アフリカ光源加速器会議から初の招聘研究員受け入れへ~

物構研トピックス
2017年8月21日
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2017年10月、アフリカ人青年 OLADIJO 氏がフォトンファクトリーにやってくる。ボツワナにある大学の研究者である彼は 2ヶ月間、放射光を用いた超耐熱合金の研究を行う予定だ。受け入れ担当者は、放射光研究系 准教授 阿部 仁。アフリカ大陸に初の放射光施設を建設しようという活動の一環だ。

2017年5月、中東の国や地域を越えた科学者の集まりが、ついにヨルダンに中東地域初の放射光施設 SESAME(セサミ:Synchrotron-light for Experimental Science and Applications in the Middle East)を立ち上げたと話題になった。参加したのは、キプロス共和国、エジプト・アラブ共和国、イラン・イスラム共和国、イスラエル国、ヨルダン・ハシミテ王国、パキスタン・イスラム共和国、パレスチナ自治政府、トルコ共和国の科学者たちだ。 2002年から国際連合教育科学文化機関 ユネスコが中心となって、放射光施設を持つ国々が支援した。日本からは、KEK のフォトンファクトリー、SPring-8などが協力している。 この活動は20年前に、スタンフォード大学の Herman Winick 教授が、使われなくなったベルリンの放射光施設を中東に移設してはどうか、と提案したのが始まりだった。賛同した研究者たちが力を合わせ、国や地域の枠を超えた連携が生まれた。

Winick 教授たちの「まだない地域に放射光施設を」という活動は続き、中東の次はアフリカに放射光施設をという草の根の運動が始まっている。 2015年、ある国際会議のポスターセッション会場に「アフリカに放射光を」と書かれた一枚のポスターが貼られていた。フォトンファクトリーの一員として SESAMEの活動に協力していた阿部は、そのポスターに目を留めた。解説者としてぽつんと立っていた Winick 教授は、「アフリカは人口も多く、克服すべき課題も多くある。未来のアフリカ人科学者たちに放射光を使う機会を持ってほしい」と語った。阿部は「日本にフォトンファクトリーが建設されたとき、放射光先進国の支援を受けたと聞いている。いま恩恵を受けている自分が、今度は恩返しをしたい」と応えた。二人は意気投合し、そのまま30分以上も立ち話をしたという。

そのときの出会いが、阿部の第 1 回「アフリカ光源加速器会議およびワークショップ」への参加(2015年11月)につながる。このときの様子は、以前の記事「アフリカに放射光を ~初の African Light Source Conference and Workshop 開催~」に詳しい。アフリカ大陸にも放射光を活用した研究の需要はあるはずだが、何しろ放射光を使ったことがある研究者や技術者がほとんどいない。そこで、会議ではアフリカの物性研究者を各国の放射光施設で受け入れ、放射光を使ってもらうなどの計画が練られた。
その後、この計画は国際科学会議(ICSU: International Council for Science)のプロジェクトとして採択されている。
また、今年 3 月にはアフリカ光源加速器会議 運営委員の Mtingwa 博士が来日、フォトンファクトリー主催のシンポジウムなどで講演し、まだない地域に放射光施設をつくることへの協力を訴えた。

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講演するアフリカ光源加速器会議 運営委員のSekazi K. Mtingwa 氏
(2017年3月「物構研 量子ビームサイエンスフェスタ」において つくば市にて)

調査を経て、今年、フォトンファクトリーは研修生の受け入れ施設リストに載った。日本から会議に出席したのは阿部だけだったから、フォトンファクトリーはリストに載った日本で唯一の施設だ。 とはいえ、阿部自身、アフリカからヨーロッパを飛び越えて日本での施設利用を希望する研究者はあまりいないのではないか、と考えていた。だから、 OLADIJO 氏からビームライン担当者に突然、施設を使いたいというメールが届いたとき、関係者はとても驚いたそうだ。阿部は、OLADIJO 氏がアフリカ光源加速器会議の参加者であることを確認し、現在、受け入れの準備を進めている。

アフリカ大陸のどこにいつ建設が始まるという予定は立っていない。だが、近い将来、放射光が必要となるときに近くに施設があるように、そう願う科学者たちは息の長い活動に取り組んでいる。 阿部は、先輩から教えてもらい初めて放射光を使ったときの、できるようになったという喜びを忘れられない。そして、それと同じくらいに、後輩に伝える喜びもあると語る。教えた相手が腑に落ちたという表情を見せるその瞬間を心待ちに、これからも支援を続ける。

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関連情報:世界科学会議(ICSU:International Council for Science)