11月21日から22日、東北大学 片平キャンパス(仙台市青葉区)にて「東北大学金属材料研究所ワークショップ - 中性子科学研究におけるJ-PARCとJRR-3の相補利用 -」が開催されました。
現在、日本で稼働している大規模な中性子源は 大強度陽子加速器施設(J-PARC) 物質・生命科学実験施設(MLF) のみで、稼働開始後9年が経ち、成果創出期に入ったと言われています。 同じく東海にある日本原子力研究開発機構(JAEA)の研究用原子炉JRR-3は2011年の震災によって稼働が止まっていますが、再稼働に向けた取り組みが進められています。 東北大学の金属材料研究所や東京大学の物性研究所を始め、中性子源を利用する研究者たちは、MLF または海外の施設で実験を行っています。
そのような中、日本の中性子利用の活性化および中性子科学の発展について議論するため、中性子研究施設の関係者・利用者が集まりました。 大型研究施設における研究基盤の構築、大学における次世代の研究者・技術者の育成、双方が連携したコミュニティ形成の取り組みが紹介され、大いに期待を受けていました。 また、中性子コミュニティや施設に対する要望や、中性子でこんなことができないかというユーザー側の夢が、中性子の施設担当者に向けて語られる一幕もありました。 話題は最先端のサイエンス、人材育成や技術移転、ミュオンや放射光X線と中性子の相補利用などにも及び、厳しい中にも和気あいあいとした議論が続きました。
J-PARCからも多数の参加者があり、物構研からは、山田 和芳 所長をはじめ、大友 季哉 教授や本田 孝志 助教が参加しました。
山田所長は「例えば、中性子と放射光など異なるプローブを使っている研究者同士の連携は、お互いに自分のプローブの弱みを含めて伝え合わないと議論が深まっていかない。
よい面の宣伝ばかりではそのプローブを使っていない人には、何が面白いのか伝わりにくい。学会ではできない議論をする場が重要だ」と話しました。
また、総評としてJAEAの 武田 全康 物質科学研究センター長は、「大学が施設に主体的に関わることには、もちろんメリットがあるが、相当の覚悟が要ることだと思う。
今回のワークショップで、3号炉が大事だという声が外部から聞かれたことを受け止め、持ち帰って今後の大学との連携の仕組みを考えたい」と述べました。
続いて総評を述べた大友教授は「中性子というプローブにどれだけの可能性があるのかをつきつめ、中性子ならではの利点はみんなで伸ばしていかなければならない。
測定手法の発展も含め、中性子としての情報をより高度なものにするために、今までの枠にとらわれずに議論していければいいと思う。
ハードウェアが高度に複雑化している現在では、個人よりも大学として関わる方が適しているし、施設側も大学の新しいアイデアがないと成り立たない。
コミュニティとしてお互いに貢献しあい、切磋琢磨していきましょう」と話しました。
次回の同様のワークショップ開催は2年後とのことですが、物性研究所でも趣旨の近いワークショップが開催されていることから、 共同開催の可能性についても言及がありました。
関連情報:
東北大学の金属材料研究所には「鉄の神様」「鉄鋼の父」とも呼ばれ、磁性研究や鉄鋼の研究の権威であった創設者 本多 光太郎 博士(1870-1954)の記念館があります。
2016年の金研創立100周年を記念してリニューアルされた本多記念室と資料展示室をご紹介します。
記念室には本多 光太郎 博士の使っていた机を始め、多くの直筆の書が飾られています。
また、展示室には金研が携わった発明品が多数並んでおり、雪山にも耐える特殊鋼を使った「山之内ピッケル」の実物も展示されています。