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空間はほんとうに 縦・横・高さの三次元だけで できている?

物構研ハイライト
2018年6月13日

突然ですが、クイズです。
X=0のところに、リンゴをもう一つ置くにはどうしたらいいでしょうか?

X=0上でx軸からずらして置けばいいですね。

一次元上では難しいことも二次元、三次元では可能になると思えませんか?
では、少し話を広げて、三次元では不思議に思えることも四次元以上がもしあれば解決するかもしれません…

◆理論物理学者は考えた

1998年、ある理論物理学者が三次元を超える次元(余剰次元)が存在する可能性を唱え始めた。「近距離間に働く重力は、余剰次元の中に押し込められている」という。

2つの物体の間に働く力には、万有引力や電磁気的な力の他に、原子核をつなぎとめる力(核力・強い力)、原子核を崩壊させる力(弱い力)の、4種類が存在していることが知られている。しかし、これらの力はその大きさが桁違いで、万有引力だけがあまりに弱い。その不自然さを解決するための理論だった。

◆空間が三次元かどうか確かめるには

三次元を超える空間が存在すると仮定しよう。余剰次元で何かが三次元にある物体を押していても、三次元にいる私たちには感知できない。しかし、押された物体が三次元上で動けば、それを観測することはできる。

空間が三次元かどうか確かめるには、物体に加えられる力と物体の動きを正確に調べればいい。物体は力を加えられると動くので、もし余剰次元から物体に力が加えられれば、三次元の力では説明できない動きをするはずだ。

例えば、星の動きはニュートンの万有引力の法則により三次元内の計算で説明できる。つまり、宇宙のスケールでは四次元の力は働いていないようだということが分かる。

では、逆に小さいスケールの空間ではどうか。

ニュートンの万有引力と逆二乗則

◆余剰次元の探索

物構研の三島 賢二 特別准教授は、名古屋大学・大阪大学・インディアナ大学とともに、九州大学の吉岡 瑞樹 准教授を中心とする余剰次元の探索に挑む共同研究に参加している。

余剰次元が存在するとすると、重力として、ニュートンの万有引力で考えられている逆二乗則に、湯川型*相互作用の項が加わる。αとλを未知の定数として、距離 r 離れた質量 m と質量 M の2物体間に働くポテンシャルエネルギー V(r) はこう書ける。

*湯川型:湯川秀樹が核力の説明のために導入した式の形。

◆物質・生命科学実験施設(MLF)での実証実験

2物体間の運動を考察することによる余剰次元の実験的探索は、現在様々な研究グループによって進められている。例えば、韓国の研究グループは、 研究用原子炉 HANAROを使って中性子による実証実験を行っている。

実証実験のモデル図

J-PARC MLF の BL05 中性子光学基礎物理実験装置でも、同様の実証実験が行われた。実証実験の方法は、容器に閉じ込めた希ガス原子に中性子をぶつけるというものだ。

パルス状に打ち込まれる中性子の99%以上は直進してビームストッパーに捕獲されるが、残りの中性子は希ガス原子によって散乱されて進路を曲げ、検出器に到達する。個々の中性子や希ガス原子を追いかけて計算するのではなく、計測したデータから統計的に中性子の受ける力と動きを算出する。検出器に到達した中性子の飛行時間と位置情報のほか、そのときのガス容器の温度と圧力、陽子ビームの出力値を記録し、解析とデータの正規化に用いた。ガス容器が真空のとき、高純度の希ガスが入っているときに、繰り返し精密に測定し、理論値とのずれを計算した。

J-PARC MLF BL05 中性子光学基礎物理実験装置 NOP
オレンジ色の実験ハッチ内に、中性子のビームブランチが3本
設けられている。今回使用したのは左端。
装置を上から見降ろしたようす(白い矢印は中性子の通り道)
中性子は左から右に向かい、希ガスの入った容器(グレー部分)を通過して
真空チャンバー(黒い部分)を通り、検出器に到達する。

◆気になる結果は?

今回は、中性子と希ガス原子の距離が0.1~1 nmの場合の実証実験となった。三次元で考えられるあらゆる力を考慮したシミュレーションと精密な実験が行われ、未知の力の探索感度を従来の同様の実験に比べて1桁向上させることに成功した。その結果、実験値とニュートンの万有引力による計算値は一致し、未知の湯川型相互作用は観測されなかった。

研究グループは今後も、余剰次元の探索領域をより広げて測定を続ける予定だ。

物構研の三島 賢二 特別准教授と 九州大学の吉岡 瑞樹 准教授

プレスリリース:2018.3.19 九州大・KEK・J-PARC・名古屋大・大阪大
「パルス中性子ビームにより原子サイズでの未知の力を検証 ― 空間が縦・横・高さの3次元だけでできているのかを探る大きな一歩 ― 」

論文情報:“Search for deviations from the inverse square law of gravity at nm range using a pulsed neutron beam” Physical Review D, 97, 062002 (2018). Christopher C. Haddock, Noriko Oi, Katsuya Hirota, Takashi Ino, Masaaki Kitaguchi, Satoru Matsumoto, Kenji Mishima, Tatsushi Shima, Hirohiko M. Shimizu, W. Michael Snow, and Tamaki Yoshioka

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