2014年の第25回CGPMでは、質量を定義するための基礎物理定数をプランク定数と定め、以下の条件が満たされれば、質量の定義変更に踏み切ることが決まった。さらに、定義改定の時期を具体的に2018年とし、関係機関に研究加速を要請した。
2017年、アボガドロ国際プロジェクトは各機関から提出されたデータを使い、プランク定数を算出した(IAC-17)。またNMIJも独自に最終データの算出に漕ぎつけた(NMIJ-17)。どちらの値にもPFの測定結果が使われている。
その頃、ワットバランス法とXRCD法のデータに一致が見られるようになった。
2018年1月、CODATA*が各機関から提出された定数値をまとめた論文を発表した。プランク定数は 6.626 070 150(69)×10-34 Js、その不確かさは 1.0×10-8となっている。グラフは、算出に使われたデータを発表順に並べ、その下にCODATAがまとめたデータ(CODATA-17)を加えたものである。CODATA-17の値に対し不確かさ2×10-8の範囲が緑の帯で、5×10-8の範囲がグレーの帯で示されている。条件がクリアされたことが分かる。
*CODATA:国際科学会議の「科学技術データ委員会」。論文によって発表された基礎物理定数を、その利用者のため、数年に一度、不確かさの小ささに応じて重み付けをした平均値を発表している。
2018年11月中旬、パリ郊外で第26回 CGPMが開かれる。ここで新しいキログラムの定義が承認されると、プランク定数の不確かさはなくなり、h=6.626 070 15×10-34 Jsと定義される予定だ。
またアボガドロ定数がNA=6.022 140 76×1023 mol-1と定義されることによって、同時にモルの定義も変わり、炭素12Cは特別な元素ではなくなる。電流の単位A、熱力学温度の単位Kについての再定義も行われる予定で、承認後は2019年5月から世界中で基本単位の新定義が使われるという。
単位系が再定義されても、私たちの生活は変わらない。むしろ、正しい計量の標準が将来にわたって確保されるため、私たちの日常に影響を及ぼさないように、見えない努力が払われてきた。
20世紀に人類が手にした量子力学が発展するにつれ、計量標準の世界でもその考え方が取り入れられ、単位として最小といえる量子を計量標準として使う「量子標準」が生まれた。質量にも量子標準が適用されることで、1 kgよりもはるかに小さい質量をより正確に計測できるようになることは間違いない。
原子・分子が集まってできる構造体を研究している物構研にとって、喜ばしい知らせと言えるだろう。メトロロジストたちの尽力に感謝したい。
論文情報: Atsushi Waseda, Hiroyuki Fujimoto, Xiao Wei Zhang, Naoki Kuramoto, Kenichi Fujii, "Uniformity Evaluation of Lattice Spacing of 28Si Single Crystals", IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement, vol.66, NO.6, 2017
産総研のプレスリリース:2017/10/24 質量の単位「キログラム」の新たな基準となるプランク定数の決定に貢献