産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 応用分子微生物学研究グループ 安武 義晃 主任研究員を中心とする研究グループは、現在B型肝炎治療に広く用いられている核酸アナログ製剤「エンテカビル」の作用機構と、薬剤耐性が生じる仕組みを明らかにしました。
一般的な生物の遺伝情報の流れでは、DNAを鋳型にRNAが合成(転写)されますが、一部のウイルスではRNAを鋳型にDNAが合成(逆転写)されることが知られており、後者の反応を進める酵素を逆転写酵素と呼びます。
核酸アナログは、DNAの材料であるデオキシリボヌクレオシドに似た構造を持つ物質の総称で、DNAの材料に構造が似ているため逆転写酵素に結合することができます。
しかし本物のDNAの材料ではないためDNAの合成がストップして、ウイルスは自身のDNAの複製を完了できません。
このような機構でウイルスの増殖を直接的に抑制させる薬剤が核酸アナログ製剤です。
しかしながら近年、核酸アナログ製剤のB型肝炎治療薬 エンテカビルに対する薬剤耐性が報告されました。 薬剤耐性HBVを克服する新しい治療薬開発には既存の薬剤の作用機構を深く理解する必要があり、そのためには薬剤が結合した状態の逆転写酵素の立体構造の情報が不可欠なのですが、 HBV逆転写酵素は非常に不安定なタンパク質であるため、構造研究は進んでいませんでした。
そこで今回、研究グループは、ヒト免疫不全ウイルス(エイズウイルス:HIV)の逆転写酵素をHBV逆転写酵素に似るように改変し、エンテカビルが結合できる、いわばHBV型のHIV逆転写酵素を作製しました。 そして、この改変HIV逆転写酵素にエンテカビルが結合した状態と、DNAの材料であるデオキシグアノシンが結合した状態の立体構造を、KEK フォトンファクトリーの強力なX線を用いて高分解能で解析しました。 両者の構造を詳細に比較したところ、逆転写酵素にエンテカビルが結合する仕組みや逆転写酵素がエンテカビルの結合から逃れて薬剤耐性に変わる仕組みが明らかになりました。
本研究により、薬剤耐性HBVに効果を示す新しい薬剤の開発が期待されます。
この研究成果は、2018年1月26日にScientific Reportsにオンライン掲載されました。
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