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MLF BL06 VINROSEにて共鳴型スピンエコー観測に成功!

物構研トピックス
2018年11月 2日

京都大学 複合原子力科学研究所の日野 正裕 准教授と小田 達郎 助教、物構研 中性子科学研究系 ソフトマターグループの遠藤 仁 准教授は、2種の中性子共鳴スピンエコー分光器の製作を進めている。 このたび、その1つのNRSE型分光器で広い波長領域におけるエコー信号の観測に成功し、美しいグラフを描き出した。
舞台は J-PARC MLFのBL06、中性子共鳴スピンエコー分光器群(VIllage of Neutron ResOnance Spin Echo spectrometers)、愛称 VIN ROSE だ。 VIN ROSÉ(ヴァン ロゼ)とはフランス語で、ロゼワインという意味である。

NRSE型において観測された中性子スピンエコー信号
縦軸は中性子の波長を表す。横軸に示すフリッパー間の距離を変えることでスピンエコー信号の波が見える。

中性子スピンエコー法とは

中性子スピンエコー法は、磁場中での中性子スピンの歳差運動を利用して散乱過程における中性子速度の微妙な変化を測定する方法で、 中性子の強度を下げずにエネルギー分解能を上げることができる。スピンエコー法にはいくつかの方式があるが、共鳴型は高い技術が必要で世界でも例が少ない。VIN ROSEは共鳴型スピンエコー分光器を世界で初めてパルス中性子源に設置するだけでなく、2つ作ってしまおうという野心的なビームラインだ。

MIEZEとNRSE

BL06に入った中性子線は2つに分岐されそれぞれの分光器に向かう。左側がMIEZE型分光器、右側がNRSE型分光器だ。
一般に中性子スピンエコー法では磁場中の試料の測定が難しいが、MIEZE型では試料に強磁場をかけた偏極解析測定等が可能である。
一方、NRSE型は、エネルギー分解能を上げることで、高分子やタンパク質など比較的大きな分子のゆっくりした動きを解析できる。 今回のスピンエコー観測はNRSE型分光器に、独自に製作したスーパーミラーを組み合わせたものだ。

スーパーミラーって?

回転楕円体の形に削られた金属表面が鏡になっている

中性子スーパーミラーとは、ニッケル炭素NiCとチタンTiをnmの精度で厚みを変えながら数千層積層したものだ。 ビームラインでは中性子が通る管の内面を鏡面にし、全反射を利用して中性子を運搬する。 中性子のエネルギーが大きくなる(波長が短くなる)ほど全反射する角度範囲は狭くなるが、スーパーミラーを使うとその範囲を疑似的に大きくでき、多くの中性子を実験に利用することができる。 スーパーミラーは中性子の輸送効率を劇的に向上させ、NRSE型分光器のエネルギー分解能を上げるためのキーデバイスだ。 曲面への精密な成膜は素人目にも難しく思えるが、京大 日野 准教授と理化学研究所、KEK等の協力によって、回転楕円体に超精密加工した金属基板表面を中性子スーパーミラー化することに世界で初めて成功した。

VIN ROSEで見たいもの

遠藤 准教授に今後調べてみたいものを尋ねると、MIEZEでは磁性流体などでのスピンダイナミクス、NRSEではソフトマターにおけるスローダイナミクスを追求したいとのこと。 VIN ROSEから始まる新しい現象の開拓に期待しよう。

遠藤 仁(えんどう ひとし)准教授

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