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菊地 貴司氏、KEK技術賞を受賞

物構研トピックス
2019年1月21日

物構研 放射光科学第一研究系技師 菊地 貴司氏が平成30年度KEK技術賞を受賞しました。この賞は、機構内の技術者を対象とし、技術の創造性、具体化、研究への貢献、技術伝承への努力等を審査し授与されるものです。今年度受賞したのは、菊地氏と、加速器研究施設技師 原 和文氏の2名で、1月16日に開催されたKEK技術職員シンポジウムでは両氏の講演が行われました。


受賞者とKEK役員(中央は山内 正則機構長)
受賞者左: 原 和文氏(加速器研究施設)右:菊地 貴司氏(物質構造科学研究所)

受賞対象となった菊地氏の課題名は「新しい非蒸発型ゲッターコーティング、非蒸発型ゲッターポンプの開発」です。


非蒸発型ゲッター(Non-evaporable getter, NEG)ポンプとは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)などの金属を真空中で加熱して活性な表面を作製し(活性化)、水素(H2)や一酸化炭素(CO)などの残留ガスを化学吸着して排気する真空ポンプです。H2に対して高い排気速度を持ち、超高真空を維持できるだけでなく、オイルフリー、省エネルギー、軽量といった利点から、フォトンファクトリー(PF)や、KEKBをはじめ国内外の加速器施設で広く使用されています。しかし、従来のNEGポンプは、製造を海外のメーカーが独占しており、高価で納期に時間がかかるものでした。PFで真空技術を担当する菊地氏は、低コストかつ高機能の国産NEGポンプの開発を目指し、2010年ごろからNEGポンプの自作を開始しました。

2017年に菊地氏は、間瀬 一彦准教授と共に、無酸素Pd/Tiコーティング(図1)という新しい技術を開発しました。これは、真空容器や真空部品の内面に、超高真空中で無酸素のTiを成膜し、さらに無酸素のパラジウム(Pd)で覆って保護するという方法です。このコーティングを施した真空容器は、大気開放、ベーキング(真空加熱)を繰り返しても排気性能が低下しないことが確認されました。また、133~150℃という従来よりも低い温度で活性化させることが可能で、コーティングの手順が容易なことや、低コストで利用できるという利点も併せ持ちます。H2O、CO、CH4等の残留ガスについても、酸素を導入しながらベーキングすることで除去することができるため、光学素子の炭素汚染を低減することにつながると期待されます。さらに菊地氏はこの無酸素Pd/Tiコーティングを使ったNEGポンプも開発しました(図2)。

図1.無酸素Pd/Ti薄膜のH2、CO排気メカニズム
図2.NEGポンプ用真空容器

菊地氏は、「今後これらの技術を放射光源、ビームライン、エンドステーションに応用すれば、建設とメンテナンスのコストとマンパワーを大幅に削減することができる。また、産業界に技術展開し、新しい非蒸発型ゲッターポンプの製造・販売を実現したい。」と話しています。

KEK技術職員シンポジウムで講演をする菊地 氏(左)と原 氏(右)

平成30年度KEK技術賞 受賞者

  • 菊地 貴司 氏(物質構造科学研究所 放射光科学第一研究系 )
    「新しい非蒸発型ゲッターコーティング、非蒸発型ゲッターポンプの開発」
  • 原 和文 氏(加速器研究施設)
    「2Kヘリウム冷凍機の製作」

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