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PFユーザーの東京大学などの研究グループ、「軌道弾性効果」の実証に成功

物構研トピックス
2019年5月 8日

東京大学大学院理学系研究科の 岡林 潤 准教授、物質・材料研究機構の 三浦 良雄 グループリーダー、名古屋大学の 谷山 智康 教授からなる研究グループは、磁性多層膜において、電圧を変化させることで磁化の向きやすさ(磁気異方性)を操作できるメカニズムを解明しました。 ここで用いた磁性多層膜は、誘電体であるチタン酸バリウム(BaTiO3)結晶の上に、ニッケル(Ni)と銅(Cu)を原子レベルで制御して交互に積層したものです。
研究グループは、KEKの放射光実験施設 フォトンファクトリー内の、東京大学大学院理学系研究科スペクトル化学研究センターによって運営されている実験ステーション BL-7Aにて、動作中(オペランド)X線磁気円二色性(XMCD)*分光の測定システムを立ち上げました。そしてこの測定システムを用い、磁性多層膜に電圧を印加してNiにかかるひずみ量を可逆的に変えた状態での軌道角運動量の変化を捉えることに成功しました。

*X線磁気円二色性(XMCD:X-ray Magnetic Circular Dichroism):放射光を用いることで左周り、右周りにねじれた円偏光を試料に照射できる。これにより元素の内殻から遷移する吸収スペクトルを測定する。左右円偏光による各元素の吸収強度の違いがXMCDである。これにより、元素別の磁気状態について知ることができる。

(a)設計した構造の模式図。BaTiO3上にNi/Cu多層膜を堆積し、薄膜の上下に電極を取り付けている。
(b) 電圧印加オン・オフ時のNiのL吸収端X線吸収スペクトル(上段)、X線磁気円二色性スペクトル(下段)。

測定結果と第一原理計算*を用いて得られた結果は、ひずみと化学結合の変化による軌道角運動量の関係を明確にするものであり、スピンと軌道とひずみの三者の関係を微視的な電子論から明らかにしています。これらの成果は、磁性と誘電性の性質を併せ持つ物質群(マルチフェロイクス)に関する基礎物理学の理解を進展させるのみでなく、電圧による磁気異方性の操作に関するスピントロニクス素子の設計においても重要な役割を果たすことが期待されます。

*第一原理計算:物質を構成する基本粒子である原子核と電子の運動、及びその間に働く相互作用のみを入力パラメータとして物質の性質を探る物理計算手法。実験とは独立して近似の範囲内では非常に高精度に、物質の物性を計算することができる。

スピン-軌道-ひずみの関係

物質をひずませるとスピンの大きさが変わることは磁歪(じわい)効果、磁気弾性効果として知られています。磁石がひずむと磁気モーメントが変化することを指し、また逆過程として物質が磁化するとひずむことも含まれます。
今回、電子論的な微視的計測と理論計算により、ひずみによる軌道状態の変化を捉えることができたため、今まで現象論的に知られてきた磁気弾性効果は、実はスピンよりも軌道成分の変化が重要であることが判りました。研究グループはこれを「軌道弾性効果」と名付けました。
この研究成果は、固体物理学の教科書の説明を深化させうる内容であり、薄膜界面のひずみの操作による軌道物性を制御するスピンオービトロニクスの学術の創成に繋がります。


詳しくは… 東京大学 大学院理学系研究科のプレスリリース:「軌道弾性効果」の実証 ~磁化配向の低電力電界制御に指針~

関連ページフォトンファクトリー BL-7A