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育児休業を終えて ~男性研究者の育休体験記~

物構研トピックス
2019年6月18日
物質構造科学研究所 中性子科学研究系 助教 山田 悟史
(職場:東海キャンパス J-PARC MLF)

2018年の4月下旬から翌年の3月末までおよそ11ヶ月、育児休業を取得しました。上司をはじめ多くの方のご理解とご協力のおかげで、今しか味わえない子どもとの貴重な時間を過ごすことができました。

育休を取得するまで

妻の職場が東京、私の職場が東海村にあり、私たち夫婦は東京での「週末婚」生活を送っていました。そんな折、一昨年の秋に第一子が生まれ、妻が翌春から仕事に復帰したいというので、私がその春から育休を取得することにしました。もちろん、私が育休を取ることなく子どもを預けるという選択肢もありましたが、もともと家族と一緒に過ごす時間が限られていたこともあり、妻の仕事復帰のサポート+αの目的で育休取得を決意しました。KEKで男性研究者が育休をとるのは私が初めてだったようです。

育休は労働者の権利、とは言え、無責任に仕事に穴を開けるわけにはいきません。私の最も重要な責務は、J-PARC MLFの中性子反射率計SOFIAを維持・管理し「共同利用」を円滑に行うことで、主担当者である私がいなくなると利用者の実験に支障をきたします。そこで、代替要員*を採用できる制度の活用を検討しました。任期満了間近だった研究グループ内の博士研究員に相談したところ、幸いなことに代替要員として働いてもらえることになりました。また、慣れないと非常に負担が大きい業務なので、サポートとして同じグループ内の研究員にも協力をお願いし引き受けてもらうことができました。彼らなら装置に詳しいので安心して任せることができます。担当している他の様々な施設運営の業務は別のスタッフにお願いし、約1ヶ月の引き継ぎ期間を経て無事に育休に入ることができました。

*代替要員:KEK独自の有期雇用職員制度を活用しています。KEKには、育児休業中の代替要員の雇用制度もあります。

さて、育休生活は?

これで心置きなく家族との時間が過ごせると思いきや、育休生活はそんなに甘くはありませんでした。正直に言って仕事をしている方がよっぽど楽です。特に私は他人のペースに合わせて行動するのが本当に苦手なようで、妻に叱られながら何とかこなして、1日が終わるころには疲れ果てていました。また、一人暮らしが長かったので家事は一通りこなせるつもりだったのですが、それはあくまで「独身向け」のクオリティーだったようです。最初の頃は自分の食事を作るのが面倒に感じて抜いてしまい、一時は育休前よりも7~8 kg体重が減りました(痩せたと言われたら「育休ダイエットです!」と答えていました)。

研究活動も続けたい

仕事は家事育児で終わりではありません。これに加えて、従来やっていた業務のサポートや実験に関する問い合わせへの回答、共著論文へのコメントなどの研究業務が待っています。子どもが寝て家事を終えた後の時間や、義母に子どもの面倒を見てもらう間などを使って何とかこれらを消化していましたが、本当に「時間を捻出する」という感じで、働きながら育児をしている世のお母さんの苦労がよくわかりました(皆さん、本当にすごいです! 頭が上がりません…)。また、妻や義母の協力を得て、研究会や打ち合わせのために外出できる機会もあり、育休中も最低限でしたが研究活動を維持できました。

ただし、業務のサポートや研究は私が自己負担・自己責任で行ったものです。装置が壊れ、すぐに修理しなくてはならないという状況でも、育休中に現場に行って働くことは認められていなかったため、電話越しにサポートすることしかできません。何度か大きなトラブルに見舞われ、ユーザーの実験が難しくなるような場面もあったのですが、代替要員を務めた方が頑張ってくれたおかげで、何とか解決できました。彼は現在も研究者としてSOFIAの開発に携わっています。

J-PARC MLF BL16 SOFIA 装置担当のみなさん
奥 左から、遠藤 仁さん、山田 悟史さん、根本 文也さん、青木 裕之さん、手前 左から、堀 耕一郎さん、瀬戸 秀紀さん
 SOFIAにて2019年6月撮影

職場復帰した今

11ヶ月に及ぶ長い育休生活でしたが、1年間の育児休業給付*の期間終了が近づいていることもあり、区切りの良い4月初めから職場復帰しました。育休中も仕事から離れていなかったおかげで、割とスムーズに職場復帰ができたと思います。

*育児休業給付:厚生労働省の制度。一定の条件を満たした場合、雇用保険制度から支給されます。

子どもは昼間、外に預けることになりました。私も平日は何もできなくなるのでどうなるか心配でしたが、妻と子どもの頑張りに加えて妻の両親のサポートのおかげで、新生活は何とか回っているようです。

育休を取得する前はまだうつ伏せを始めたぐらいだった子どもは、今やスクールバスに乗ってご機嫌でバイバイをするようになりました。育休中はそんな成長過程をリアルタイムで感じられましたが、今は週末にしか味わうことができず、非常に寂しく感じています。とはいえ、私が帰ると子どもは一緒に仲良く遊んでくれて、一緒にいた11か月がなければこうはいかなかったかもしれないなぁと思います。改めて、育休とそれをサポートしてくれた家族や職場の皆さんに感謝しています。

真の男女共同参画社会にむけて

今回はタイミング良く担当装置に明るい人を代替要員として雇用でき、共同利用に穴を開けずに育休を終えられたので、幸運だったと思っています。しかし、そんな恵まれた状況でも、育休取得には、業務の引き継ぎの手間や研究に費やせる時間と機会の大幅な損失によるパフォーマンス低下など、障壁やデメリットはかなり大きいと感じたのも事実です。

企業では部分的に就労しながら育休を取得するいわゆる「半育休」(毎月80時間までの不定期労働なら給付金の対象)や、在宅勤務などを組み合わせることによる自由度の高い育休制度の運用が広がりつつあるようです。人によって子育ての環境や育休取得の動機も違いますので、半育休や在宅勤務がベストとは言い切れませんが、大学や研究所でも選択肢が増えれば育休のデメリットも軽減でき、少なくとも今よりは男性が育休を取得しやすい環境が整えられるかもしれません。特に、部分的な就労はKEKでは認められていないのですが、トラブルが生じた際の対応を考えると、大学共同利用機関としてこの仕組みは必須ではないかと感じます。

もちろん、これは男性に限った話ではなく、出産後も仕事を続けたい女性は、育休を取得せざるを得ないというのが現状だと思います。なるべく多くの人が休業による仕事へのデメリットを軽減させられる柔軟な制度設計が「仕事・育児共に男女共同参画」の鍵になると感じました。今はまだ制度が現実に追いついていない面もありますが、男性も含めて育休を取得する人が増えていけば知見も増え、より現実に即した制度ができあがるはずです。

そして、ずいぶんと気が早い話ではありますが、子どもが成長して孫が生まれる頃には、本質的な男女共同参画が進み、子育てがしやすい社会が実現されていることを期待したいと思います。

3人のイクメンたち 左から山田 悟史さん、瀬谷 智洋さん(中性子科学研究系)、小嶋 健児さん(元ミュオン科学研究系/現TRIUMF・カナダ)
 量子ビームサイエンスフェスタにて2019年3月撮影

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