10月14日(祝)に東京 神田錦町の学士会館において「永嶺謙忠先生 日本学士院賞受賞祝賀会」を開催しました。
6月17日、物構研 ミュオン科学研究系の永嶺謙忠 名誉教授は「ミュオンラジオグラフィーの開拓と大規模構造体の非破壊的研究」という研究業績により、第109回日本学士院賞を受賞しました。 受賞理由は「素粒子ミュオンのビーム生成と利用において独自の研究領域を開拓するとともに、ミュオンを用いる学際的科学を総合的に発展させ、ミュオン科学の開拓的研究に多大な貢献をされた。」というものです。
その栄誉を称えKEKの研究者を中心に54名が集い、かつて共に研究した仲間としてあるいは教え子として永嶺先生との思い出を語りました。また、これまで永嶺先生が発展させてきたミュオン科学のさらなる発展について思いを巡らせました。
永嶺先生は、茨城県つくば市北部、現在のKEKの地に、東京大学理学部附属 中間子科学実験施設(東大中間子施設)を立ち上げ、世界で初めてパルス状のミュオンを作り出しました。そして、これまでの直流状(DC)ミュオンではなし得なかった様々な研究を次から次へと考案し、日本のみならず世界のミュオン科学の礎を築きました。更に、加速器で作られるミュオンだけでなく、宇宙線ミュオンの高い透過能力を生かしたミュオンラジオグラフィを創始しました。永嶺先生はこれらの開拓的研究を通じて、難しそう!という印象を持たれがちだった「素粒子ミュオン」を、私達の身近に存在し、しかも、役立つ存在であることを世の中に示してきたのです。
永嶺先生によるミュオンラジオグラフィの始まりについてご紹介しましょう。
筑波山を臨む東大中間子施設で、宇宙線ミュオンを用いたイメージング手法を開発されていたときのこと、永嶺先生はトレーラで測定装置を運びこみさえすれば、どこででもミュオンの観測ができることを思いつきました。
早速、活火山 浅間山にある公園「浅間園」に可動式の測定装置を運びこみ、カルデラの内部の様子を撮ることに成功し、ミュオンによって噴火口やマグマの通り道を非破壊で観測できることを実証したのです。
永嶺先生はその後、ミュオンラジオグラフィの産業利用にも尽力され、溶鉱炉の内部の耐火レンガの状況を可視化して、これまで不可能とされていた高炉内部の物質密度分布や耐火レンガの損耗量をモニターする手法を編み出しました。大規模構造体の非破壊研究におけるミュオンラジオグラフィの位置づけは確固たるものとなり、昨今では、福島で被災した原子炉デブリやピラミッドに隠された部屋の探索など、マスコミを賑わす機会も増えました。2017年に日本学士院賞を受賞し、来賓として招かれた 元 素粒子原子核研究所所長の高崎史彦 KEK名誉教授はエジプトのピラミッドの内部をミュオンラジオグラフィで探索する「スキャンピラミッド計画」のメンバーでもあります。
祝賀会の最後に、永嶺先生は「今回の受賞はここにいるみなさんを代表して受けとったもの、ミュオンは様々な研究および研究者の触媒となる粒子である」と語りました。 分野が異なってもミュオンという粒子を通じて研究も研究者もつながっている、切磋琢磨してよい化学反応を起こしなさいということを示されたのではないでしょうか。
日本学士院賞 第109回(令和元年6月17日)受賞一覧
関連記事: