国立大学法人 総合研究大学院大学(総研大) 高エネルギー加速器科学研究科 物質構造科学専攻の原野 貴幸(はらの たかゆき)さんが、高エネルギー加速器科学研究科長賞を受賞しました。
研究科長賞は総研大在学中に特に優れた学位論文を提出した学生を表彰するもので、3月24日にオンラインで開催された総研大の学位記授与式の後、高エネルギー加速器科学研究科の磯 暁 研究科長より賞状が授与されました。
原野さんの学位論文のタイトルは「Nano-scale heterogeneity of carbon chemical structures in structural materials studied by scanning transmission X-ray microscopy(走査型透過X線顕微鏡による構造材料中炭素の化学構造の不均一性に関する研究)」です。炭素繊維のように炭素から構成されるもの、あるいは鉄鋼材料のように炭素を含有する構造材料の双方について、炭素の化学状態の不均一性が特性を支配するメカニズムをフォトンファクトリー(PF)のX線顕微鏡を用いて解明しました。さらにそれらの成果を炭素繊維と鉄鋼材料それぞれの分野の学術論文にまとめたことも評価されました。
炭素繊維を用いた複合材料として炭素繊維強化樹脂(CFRP)があり、航空機や燃料電池車用水素タンクの構造材料として注目されています。原野さんの研究により、CFRP材料中の炭素の化学状態の分布は均一ではなく同じ性質をもつかたまりが分布していること(ドメイン構造)が明らかになり、機械的強度や寿命の高性能化のための重要な材料設計指針につながることが期待されています。また、鉄鋼材料は炭素が主成分ではありませんが、材料を強くするために少量添加することは古くから行われていました。経験的に何をどのように加えれば効果が出るかは知られていましたが、化学状態の詳細な観察は従来の手法では難しく、放射光を使ったX線顕微鏡による研究でようやく明らかになったものです。
原野さんは、民間企業の研究員という職を持つ総研大高エネ研究科でもあまり例がない社会人学生でしたが、総研大で身に付けた視野と独創性を実業的な学術研究に活かして活躍されることでしょう。
原野さんの指導を担当した物質構造科学専攻の木村 正雄 教授は、「原野さんは、その人柄・行動力を活かして、PFだけでなく様々な放射光施設や計測機器を活用して研究を進めてくれました。だからこそ、PFの走査型透過 X 線顕微鏡(STXM)観察による知見がより意味があるものとなり、研究推進につながっていきました。また、取り組んでいる材料を実社会で活用していくための視点をもって取り組んでくれたので、得られた知見が実際の材料設計やイノベーションにつながっていくことが期待できます。」と話しています。
原野さんからは、以下のようなコメントをいただきました。
「このような栄誉ある賞をいただき大変恐縮しつつも嬉しく思っております。指導教員の木村 正雄先生、武市 泰男先生をはじめ、一緒に実験させていただいた山下 翔平先生、若林 大佑先生など多くの方々にご指導いただきました。
私は高エネ研に学部生からお世話になっております。学部3年生でサマーチャレンジ(3期生)に参加させていただき、修士からはずっとPFで実験させていただいています。
総研大では、原理原則に立脚した論理性、世界最先端の計測技術を身につけさせていただきました。それに加え、総研大時代に得た皆様との縁を大切にして、産業界から放射光業界に貢献することで、研究者として育てていただいたPFと高エネ研に恩返ししたいです。」
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