9月4日(土)と5日(日)の2日間、KEK一般公開が昨年に引き続いてオンラインで開催され、YouTubeのKEKチャンネルおよびニコニコ生放送でライブ配信されました。両日ともYouTubeのピーク値で250人以上、ニコニコ生放送の来場者数(のべ人数)は13,000以上と、今年も多くの方にご参加いただきました。
配信された内容はこちらから再生できます。
KEK一般公開は、つくばキャンパス研究本館のスタジオから、KEK広報室の髙橋 将太(たかはし しょうた)さんの進行で進められました。出演者がスタジオのカメラの前で話すプログラムと、研究所内外とオンラインで結んで中継を行うプログラムのほか、事前に収録した動画を配信するプログラムがありました。
オープニングではKEKのオリジナルグッズ展示コーナーが映され、物構研オリジナルTシャツやマスキングテープなどが紹介されました。
KEKにポストドクター(ポスドク)研究員支援のための寄附制度が新設されたことから、KEKで活躍するポスドク研究員の研究内容や科学への想いを語ってもらおうという企画です。 物構研からは、放射光科学第一研究系 表面科学研究部門の阪田 薫穂(さかた かおるほ)さんが出演し、普段の実験で使っているフォトンファクトリーの実験装置の紹介や、研究者になったきっかけなどを話しました。
SF映画に詳しい東京工業大学の山崎 詩郎(やまざき しろう)さんが、大人気アニメ「エヴァンゲリオン」に登場する装置について、実現が可能なのか陽電子の専門家と考えるトーク企画です。加速器研究施設 加速器第五研究系から宮原 房史(みやはら ふさし)研究機関講師が陽電子ビームを使ったSF兵器についてシミュレーション計算に基づき解説しました。続いて、物構研 低速陽電子実験施設の和田 健(わだ けん)准教授が、KEKでの低速陽電子ビームの作り方や実際の物質研究への利用について話しました。
広島大学大学院先進理工系科学研究科の薮田 ひかる(やぶた ひかる)教授は「はやぶさ2」初期分析チーム 固体有機物分析チームのリーダーです。固体有機物チームの目標は、小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰ったリュウグウの微粒子のどこに、どのような種類の有機物が分布しているかを知ることで、宇宙における生命の起源を明らかにすることです。そのために、フォトンファクトリーBL-19AのX線顕微鏡で分析を行います。
講演では、小惑星のなりたちの解説と、隕石に含まれる有機化合物の分析結果に加え、「小惑星が大量に降り注ぎ地球に水や有機物がもたらされた」という仮説が紹介されました。隕石の分析は多数行われ、有機化合物が宇宙にたくさんあることは分かっていますが、小惑星そのものの分析は「はやぶさ」のイトカワに次いでまだ2つ目です。講演の後半には、これから本格化する「はやぶさ2」のサンプル分析について、フォトンファクトリーBL-19Aからの生中継を交えて解説しました。ビームライン担当者の山下 翔平(やました しょうへい)助教が、司会進行とX線顕微鏡による分析の紹介を行いました。
関連サイト:物構研 リュウグウ試料分析特設サイト「はやぶさ2微粒子解析」
講演と物構研企画の間に、フォトンファクトリーの研究環境整備と将来計画推進のために使用される特定募集寄附金の紹介がありました。フォトンファクトリーの若林 大佑(わかばやし だいすけ)助教が動画で登場し、寄附金の使いみちの案として、若林助教が考える「攻めたデザイン」の2ビームを用いたビームラインを紹介しました。
今年は、フォトンファクトリー実験ホール内に物構研のスタジオを開設しました。新人研究員の大下 宏美(おおした ひろみ)博士研究員と雨宮 健太(あめみや けんた)センター長が、物構研の4種の量子ビームとCIQuS(サイキュース)を紹介します。今日取り上げるテーマは、燃料電池の材料とエレクトライドと呼ばれる物質です。
CIQuSの山田 悟史(やまだ のりふみ)准教授:水素自動車にも使われる燃料電池材料の研究で、中性子反射率測定を利用して行いました。MLF BL16では、サンプルが中性子ビーム位置に移動するようすを実際に装置を動かして紹介しました。今後は、放射光や低速陽電子も活用して実験を行いたいと考えています。
CIQuSの雨宮 健太 教授:ここは軟X線のビームラインで、軟X線は大気を透過できないので、パイプの中は全て真空になっています。このビームラインでは実験したい人がそれぞれ装置を持ち込んで実験することができ、いつも世界で初めての実験が行われています。山田さんの装置ももうすぐここにやってきます。
低速陽電子実験施設の望月 出海(もちづき いづみ)助教:低速陽電子の作り方を説明しました。陽電子は正電荷を持っているので、物質の表面で浅く屈折し最表面の高精度な情報を得ることができます。物質材料最表面の原子の並びを正確に解明して触媒反応のメカニズムを知ることに貢献したいと思います。
ミュオン科学研究系の門野 良典(かどの りょうすけ)教授:今の地球上にあまり存在しない元素(レアアース)を使わずに高機能な材料を作ろうという研究をしています。そのひとつがエレクトライドで、普通の物質から原子核だけを1層抜き出して電子の層だけを残した物質です。本当にエレクトライドができたかどうか、放射光やミュオンを使って実験しました。フォトンファクトリーBL-2の光電子分光装置では、エレクトライドの構造になっていることが確かめられました。ミュオンでは、磁石の性質があるかどうかを確かめました。
ミュオン科学研究系の中村 惇平(なかむら じゅんぺい)技師:紹介するのは正の電荷をもつ正ミュオンビームを使う汎用μSR実験装置アルテミスです。ミュオンビームが試料に当たると飛び出す陽電子を検出することで、測定したエレクトライドには磁石の性質がないことが分かりました。
オンラインで開催した2度目のKEK一般公開、お楽しみいただけましたでしょうか?
どんな人が見てくれるのだろうか、そもそも緊急事態宣言下で予定通り開催できるのだろうか、という不安もありましたが、普段は2つのキャンパスに分かれて研究活動をしている物構研全体で1つの企画に取り組みました。
今回は、物構研特設サイトに一般公開開催時間中にYouTubeおよびニコニコ生放送にお寄せいただいた質問に応えるQ&Aコーナーを設ける予定です。ご覧くださったみなさま、コメントをお寄せくださったみなさま、ありがとうございました。
物構研はこれからも4種の量子ビーム(近年はもっと増えています)を持つ強みを活かして、研究活動を進めていきます。今後とも応援よろしくお願いします。