放射光実験施設の丹羽 尉博(にわ やすひろ)特別助教、高橋 慧(たかはし けい)元博士研究員、一柳 光平(いちやなぎ こうへい)元研究員、木村 正雄(きむら まさお)教授は日本金属学会論文賞材料プロセシング部門を受賞しました。9月21日(水)に福岡県の福岡工業大学で開催された日本金属学会2022年秋期第171回講演大会で受賞式がおこなわれました。
日本金属学会論文賞は日本金属学会誌及びMaterials Transactionsに前1箇年に掲載された論文中、学術上又は技術上特に優秀な論文に対して授与されます。
放射光を用いた分析手法DXAFS (dispersive X-ray absorption fine structure)を用いて極短時間分解能(〜ナノ秒)で金属等の構造相転移ダイナミクスを観察する手法を提案し、その可能性をFe-C系で検証したことが認められました。拡散を伴う構造変化を観察するには、(a)ナノ秒の時間分解能で、かつ (b)数秒以上の長時間の観察が必要です。しかし従来の手法では、時間分解能が秒〜分以上であるか、極短時間分解能で観察可能であるが長時間の観察ができない、のどちらかに限定されていました。本論文のDXAFS法とレーザーを同期させた計測アプローチは独自のアイデアでこれらの課題を解決し、金属材料の相転移観察に最適な手法を提供している点で画期的なものです。さらに合金中の特定の元素について非晶質でも測定可能であるという優れた特徴を有しており、今後様々な金属や合金系の構造相転移やナノ析出の観察に応用が期待できインパクトが大きいことが期待されます。
受賞論文;Time-Resolved Observation of Phase Transformation in Fe–C System during Cooling via X-ray Absorption Spectroscopy
Yasuhiro Niwa, Kei Takahashi, Kouhei Ichiyanagi, Masao Kimura
https://doi.org/10.2320/matertrans.MT-M2020301
X線を用いた時間分解計測の分野では、X線自由電子レーザーを用いたフェムト秒オーダーでの測定が世界の最先端です。今回受賞した研究はそれよりもずっと遅い時間スケールで計測された例ですが、これまで我々のグループが長年取り組んできたマルチスケールで、変化を直接観察することの重要性を評価して頂いたと感じています。実材料の生成や劣化の過程は時空間に複雑な階層を持って進行します。世の中の役に立つ材料開発のためには、この階層に応じた適切な時間、空間スケールで観察することが極めて重要です。今回の受賞を励みに、今後も放射光施設スタッフとして、世界最高性能も目指しつつ、現有リソースを最大限に活用した様々な時間スケールでの観察が可能なシステムの構築に貢献できるよう努めたいと思います。
本論文の共著者はすべて物構研の研究者です。試料自体は市販の標準的なFe-C合金を用いた研究であっても、(1)その分野で計測法が課題となっている現象に注目する発想と、(2)それを解決する計測アプローチを実現化することで、当該分野の学会から学術的に評価を受ける研究ができることを示せたのはとても嬉しいことです。こうした「放射光施設での材料研究への取り組み方」を今後も発展させていきたいと考えております。