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フォトンファクトリーの利用研究で日本製鉄(株)・先端技術研究所の村尾玲子室長らが日本鉄鋼協会 俵論文賞を受賞

物構研トピックス
2023年3月24日

日本製鉄株式会社・先端技術研究所の村尾玲子(むらお・れいこ) 室長、放射光実験施設の木村正雄(きむら・まさお)教授が一般社団法人日本鉄鋼協会 俵論文賞を受賞しました。3月8日(水)に東京大学で開催された日本鉄鋼協会第185回春季講演大会で受賞式が行われました。この論文賞は、日本鉄鋼協会が発行する月刊の査読付き和文論文誌「鉄と鋼」に掲載された論文を対象に毎年選考されます。

村尾氏は、同社の放射光利用研究の主要メンバーそしてリーダーとして、10年以上、KEKとの共同研究を通じて、PF(フォトンファクトリー)の様々なBL(ビームライン)を利用して、鉄鋼材料とその原料や製造プロセスに関する研究に携わってこられました。その成果は社内の研究推進に反映されるとともに、学会や論文でも積極的に発表されています。

受賞式の村尾玲子氏と木村正雄教授

受賞対象となった論文

【論文タイトル】XRDおよび XAFS による多成分カルシウムフェライトの還元挙動のその場観察

【雑誌】鉄と鋼, Vol.107 (2021), No.6, pp.517-526

【著者】村尾玲子 (日本製鉄(株)、木村正雄 (大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構、総合研究大学院大学)

【概要】社会インフラを支える重要な構造材料のひとつである鋼は、焼結鉱と呼ばれる鉄酸化物を高炉(容積5000 m3超の大型反応炉)で連続的に還元することで製造される。焼結鉱は、原料となる数mmの鉄鉱石(主成分はFe2O3)の粒子をカルシウムフェライト(Fe-Ca-O系酸化物)で融着(高温焼結)したもので、数10μm〜mmの複雑な気孔網により還元ガスによる還元反応が進行する。そのため、鉄鉱石の融着と気孔網生成のキーとなるカルシウムフェライト形成反応とその還元反応は、鉄鋼製造プロセスの最重要反応のひとつである。しかしながら、天然鉱物である鉄鉱石には、SiO2等の多様な微量鉱物が含まれているため、実際の工業プロセスでは複雑な多成分系カルシウムフェライトが形成され、還元プロセスの素反応は完全には理解されていなかった。

本論文では、複雑な構造を有する多成分カルシウムフェライトの還元挙動を、熱分析を用いた酸素脱離過程の評価、X線回折法による中間生成相の同定、X線吸収分光法によるFe、Caの局所構造変化を組み合わせた総合的解析アプローチにより解明することに成功した。特にその場(in-situ:『その場で』という意味のラテン語)測定による観察により、(1) Fe-Ca-O系複合酸化物が分解と還元の多段階反応により還元されていくこと、(2)個々の素反応の反応速度は化学種により大きく異なることなど、従来不明点が多かったカルシウムフェライトの還元プロセスでの素反応が初めて明らかになった。こうした素反応メカニズムの解明は、焼結鉱の還元プロセスの高効率化による省エネや省資源さらにはCO2排出の削減につながることが期待され、学術的・工業的にも波及効果が大きいことが高く評価され受賞につながった。

村尾玲子氏の受賞の感想

われわれの研究グループは非平衡不均一な反応である製銑プロセスの素反応の解明に取り組んでおり、特に高炉原料である焼結鉱に含まれる多成分カルシウムフェライトの生成反応、還元反応のその場観察に高輝度放射光を利用してきました。本研究では、焼結鉱の還元反応についてX線吸収分光法とX線回折法を相補的に用いて反応素過程を明らかにし、結晶学的観点で考察を行った点を評価いただきました。入社以来長年取り組んできた研究の成果を何とか形にすることができ、ほっとしています。その場観察では実プロセスをどのように模擬するかが鍵ですが、本研究ではquick-XAFS(X-ray Absorption Fine Structure:通称ザフス)法の時間分解能が適しており良いデータが得られました。今後、カーボンニュートラル製鉄に向けて新しいプロセス開発を進める上で、本アプローチ方法や知見を役立てていきたいと考えています。

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