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中村 惇平氏、日本物理学会の若手奨励賞を受賞

物構研トピックス
2025年2月14日

物構研 ミュオン科学研究系の中村 惇平(なかむら じゅんぺい)技師が第19回日本物理学会の若手奨励賞(領域10)を受賞しました。この賞は将来の物理学を担う優秀な若手研究者の研究を奨励し、学会を活性化するために設けられました。オンラインで開催される日本物理学会2025年春季大会で受賞記念講演が予定されています。

受賞理由となった研究内容

受賞題目は「μSR実験による層状カルコゲナイド物質の研究」です。硫黄、セレン、テルルといった元素はカルコゲンと呼ばれ、これらを含む物質はカルコゲナイドと呼ばれます。中村氏は、大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)のミュオンビームを用いて、ミュオンスピン回転(μSR)実験を行い、層状カルコゲナイド物質に関する研究を進めました。この成果は学位論文および2本の学術論文としてまとめられています。

研究では、半導体材料である硫化ゲルマニウムにおいて、ミュオニウムの形成が初めて観測され、深い水素欠陥準位の存在を示すことに成功しました。これにより、材料の性能向上に向けた重要な知見が得られました。また、二セレン化クロム銀の常磁性相では約180ケルビン以下で短距離磁気相関が発達することを示しました。これは、先行研究における中性子準弾性散乱の解釈に重要な手掛かりを提供しました。その後もセレン化ゲルマニウムなどに関するμSR実験を継続し、研究がさらに推進されています。研究成果の一部は物理学会の領域10で報告され、一連の研究成果が今回の若手奨励賞の受賞につながりました。

受賞の感想

物理学会の領域10のX線・粒子線(ミュオン)の分科ではビームラインの建設から物性実験まで幅広く報告できます。右も左も分からない2012年にミュオン科学研究系の三宅 康博(みやけ やすひろ)教授(当時)の勧めで最初に発表したのを懐かしく思い出します。J-PARC MLFで14年間働く中で、この物理学会の領域10でさまざまな報告をさせていただいた結果、このたび素晴らしい賞を受賞することになり大変嬉しく思います。2年前には日本中間子科学会で学生奨励賞をいただき、社会人博士としての学位取得の取り組みを評価していただきましたが、このたびは学位取得後も継続した研究を評価していただきました。

ご推薦いただいた指導教員の筑波大学の末益 崇(すえます たかし)教授をはじめとして、共同研究者の皆さま、領域10のX線・粒子線(ミュオン)の皆さま、KEKミュオン科学研究系およびJ-PARCミュオンセクションの皆さまに深く感謝申し上げます。

大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)第1実験ホールにあるミュオンS1エリアの青い扉の前で微笑む中村氏

中村 惇平 技師

図1 硫化ゲルマニウム(GeS)とテルル化ゲルマニウム(GeTe)のμSRスペクトル(アシンメトリー)。GeSでの振幅の減少はミュオニウムの形成を示す。(画像をクリックするとポップアップで開きます)

図2 二セレン化クロム銀(AgCrSe2)常磁性相の3つの領域。短距離スピン相関を詳しく調べる事で分類できた。(画像をクリックするとポップアップで開きます)

受賞対象論文

  • "Hydrogen impurities in p-type semiconductors, GeS and GeTe", J. G. Nakamura, Y. Kawakita, K. Shimomura, and T. Suemasu, J. Appl. Phys. 130, 195701 (2021).
  • 中村惇平, Muon spin rotation study of layered chalcogenide compounds, 筑波大学大学院 理工情報生命学術院 博士論文 (2022).
  • "Short-range spin order in paramagnetic AgCrSe2", J. G. Nakamura, Y. Kawakita, H. Okabe, B. Li, K. Shimomura, and T. Suemasu J. Phys. Chem. Solids 175, 111199 (2023).
    2023.04.27 プレスリリース 層状化合物にミクロな磁気揺らぎが存在 〜ミュオンで 3 つの温度領域を発見〜

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