物構研 中性子科学研究系の市川 豪(いちかわ ごう)研究員が第20回日本物理学会の若手奨励賞(素粒子実験領域)を受賞しました。この賞は将来の物理学を担う優秀な若手研究者の研究を奨励し、学会を活性化するために設けられました。オンラインで開催される日本物理学会2026年春季大会で受賞記念講演が予定されています。
受賞題目は「パルス中性子ビームを用いた中性子ウィスパリングギャラリー状態の測定」です。市川氏は、大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)ビームラインBL05 NOPの中性子ビームを用いて、世界で初めてパルス中性子による中性子ウィスパリングギャラリー状態の測定に成功しました。
凹面鏡に中性子ビームを沿わせると遠心加速度によって表面を這うような量子状態(ウィスパリングギャラリー状態)が現れます(図1)。重力と加速度が等価であることを使うとこの量子状態は重力によって束縛された量子状態のアナロジーとして扱えるため、仮想的な重力下の量子状態を探索することができます。観測結果は理論計算と良く一致し(図2)、地球重力の700万倍に相当する状況でも量子力学が正しく成り立っていることを2%の精度で検証しました。さらに高い精度で凹面鏡を作成することで量子力学の検証に留まらず、鏡と中性子の間に働く未知の相互作用を探索することも可能となります。研究内容のユニークさと、基礎的な実験への興味深いステップであることが評価され、若手奨励賞の受賞に繋がりました。
類似の研究が少ない分野でありますが、自分が面白いと思えた研究成果を評価していただいたことが大変ありがたく嬉しく思います。この研究を発展させて量子力学のさらなる理解、および未知の物理現象の探索へつなげていきたいと思います。
対象論文の若手奨励賞への応募を快諾いただいた共同著者のJ-PARC BL05 NOPの装置責任者である大阪大学RCNPの三島 賢二(みしま けんじ)准教授(実験当時の所属は物構研中性子科学研究系・特別准教授)に感謝いたします。また、素晴らしい賞を受賞させていただいたことにつきまして日本物理学会・素粒子実験領域の皆さま、および研究の機会と環境を与えていただきましたことにKEK物構研中性子科学研究系およびJ-PARCの皆さまに深く感謝申し上げます。
市川 豪 研究員
図1 量子状態を作る概念図とガラス凹面鏡の写真。
図2 量子状態の干渉縞の比較。