IMSS

物構研前所長の小杉信博氏が日本放射光学会 放射光科学賞を受賞

物構研トピックス
2025年2月 4日
受賞式
授賞式にて 足立 伸一日本放射光学会長(左)と小杉 信博氏(右)

物質構造科学研究所(物構研)前所長の小杉 信博氏(現、大阪大学 核物理研究センター 特任教授)が、第8回日本放射光学会放射光科学賞を受賞しました。この賞は、放射光科学の進展に大きく貢献した研究者、または研究グループの功績を讃えるために授与される賞で、1月10日につくば国際会議場で開催された第38回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムにおいて授賞式および受賞講演が行われました。

受賞の対象となった功績は「内殻励起による局所電子構造研究と放射光分子科学への貢献」です。小杉氏は、放射光X線吸収分光法を駆使して、さまざまな分子の電子構造の研究を40年以上にわたって進めてきました。その研究範囲は、理論から実験、気体・液体・固体に限らずさまざまな試料、使うビームも軟X線から硬X線と、広い視点にわたっています。X線吸収分光法は、X線がある物質に吸収される度合いを、X線のエネルギーを連続的に変えながら測定する手法で、分子の性質に大きく関わる「電子」に関するさまざまな情報を得ることができます。X線のエネルギーを自由に選べる放射光が実用的に使えるようになってから、この手法は多くの分野に飛躍的に広がりました。日本初の、X線領域の光まで発生する放射光としてフォトンファクトリーが運転を始めた1982年頃、東京大学理学部で研究者としてのキャリアをスタートした小杉氏は、さまざまな試料のX線吸収分光実験を精力的に行うとともに、その内殻吸収端近傍構造から励起状態ダイナミクス、振電相互作用、分子間相互作用、スピン軌道相互作用などの分子の電子状態の詳細情報を得るために独自の量子化学プログラムの開発にも取り組みました。フォトンファクトリーを中心にしたこれらの先駆的な研究成果は、現在に至るまでの幅広い共同研究や国際連携につながっています。

受賞講演では、分子系の基礎的なX線吸収スペクトルとそこから分かる物理現象を次々と紹介し、「これまでずっとX線吸収分光にこだわってやってきました。その理由は、シンプルだからです」と語りました。シンプルだからこそ、ビーム特性が直接測定結果に反映されることが、放射光のビームの性能を向上させたい、と思うようになったとのことです。1993年からは分子科学研究所に異動し、極端紫外光研究施設(UVSOR)の施設長として、軟X線吸収分光を含むエネルギー分解能、空間分解能の飛躍的な向上を目指して2度の高度化を主導しました。2018年からはKEK物構研の所長に就任し、放射光も含めた異種量子ビーム施設間連携を推進し、所内連携を目指した量子ビーム連携研究センター(CIQuS)、国内外連携を目指した新領域開拓室の二つの組織を立ち上げました。

昨年度末に物構研所長の6年間の任期を終えた小杉氏は、現在、大阪大学核物理研究センターという、量子ビームを扱う加速器施設に所属しています。「少し自由の身になれたので、研究のことをいろいろ考えている」と話しながら、量子ビーム施設の国際連携を含めた新しい展開に関してもまだまだ活躍してくれそうです。

関連ページ