7月18日、エンジニアリング協会による第32回エンジニアリング功労賞の受賞式が行われ、KEK物構研の川合將義名誉教授、株式会社 間組(ハザマ)の奥野功一氏、山田人司氏が受賞しました。同賞は、エンジニアリング産業に関与し、その活動を通じエンジニアリング産業の発展に著しく貢献した者に授与されるものです。
左から:奥野功一氏、川合將義名誉教授、山田人司氏
受賞対象となったのは「中性子遮蔽コンクリートの開発」で、2010年のベスト産業実用化賞に続く受賞です。J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)は、世界最高強度のパルス中性子を利用する実験施設です。このような施設では、中性子を遮蔽するためにコンクリートが使用されています。中性子は非常に透過力が高いために、その遮蔽体は厚さ1m以上にも達し、施設全体で広大な土地が必要になります。
KEKとハザマの共同研究チームは、中性子を吸収しやすいホウ素を多く含む灰ほう石等の天然岩石を利用し、最適の配合率にすることにより、遮蔽コンクリートの開発を行いました。特に、水素・ホウ素の含有量の多いかんらん岩、灰ほう石を粗骨材、細骨材として用いたコンクリートは、普通コンクリートの1.7倍の中性子遮蔽性能があり、普通コンクリートの厚さを40%低減できることを、ハザマの放射線実験室で実証しました。
遮蔽性能の向上は、遮蔽コンクリートのスリム化につながります。J-PARC/MLFでは、限られたスペースで多くの実験装置を設置する必要があるため、このコンクリートは中性子分光器SPICA、大観、NOVAの遮蔽体にも使用されいます。特にSPICAでは、長さ52 mの中性子ビームラインと中性子分光器の両方の遮蔽が、鉄やポリエチレン、ホウ酸レジンとコンクリートの多重層のもを用いる代わりに、中性子遮蔽コンクリートのみでつくられ、スペースだけでなく、工程もスリム化することができました。このような構造の長尺の中性子分光器は、世界的にも初めてといえます。
J-PARC/MLFにある、中性子ビームラインSPICA
(左)奥の紺色の円筒形部分の内部で中性子を発生、そこから放射線状に実験装置まで中性子を運ぶ。本コンクリートは白い部分に使用されている。(右)分光器周りの遮蔽体
中性子は、このような学術利用の他、がん治療や物質の評価測定などにも有効であり、癌治療用医療施設、産業用施設等で中性子遮蔽コンクリートのより広い実用化が望まれています。