7月30日、31日、機構内にて第2回コンパクトERLサイエンスワークショップが開催されました。コンパクトERLはKEKが次世代放射光源として検討しているエネルギー回収型ライナック(ERL)の実証器として、現在建設が進められている加速器です。
加速器における要素技術の検証を主目的としているコンパクトERLですが、同時にコンパクトERLから生み出される、位相の揃ったコヒーレントテラヘルツ光、微小光源かつ短パルスの高繰り返しであるレーザー逆コンプトン散乱X線源という特徴ある光がサイエンスにどのような可能性をもたらすかということも重要です。このワークショップではコンパクトERLによって行える研究テーマについて議論されました。
河田洋ERL計画推進室長より、開催趣旨とコンパクトERLの建設状況について述べられ、ワークショップが始まりました。初日は加速器や放射光発生のための技術開発、およびコンパクトERLから発生するフェムト秒という短い時間幅のレーザー逆コンプトン散乱X線を利用したサイエンスについて議論されました。100フェムト秒(10兆分の1秒)の高時間分解能を利用した衝撃圧縮過程の構造変化や、位相の揃った原子の集団振動であるコヒーレントフォノンのダイナミクス、さらにはレーザーによるの気体分子の配向の制御、観測など、原子レベルから超高速現象についての詳細な研究が可能になります。また準単色性という光源性能は、一度に広範囲のエネルギー領域を測定するDXAFS(エネルギー分散型X線吸収微細構造)実験にも適しており、反応中の触媒の反応種と母材を同時に観測、比較出来ることなども発表されました。
2日目は、位相の揃った テラヘルツ光を利用したサイエンスを中心に発表、意見交換が行われました。テラヘルツ光は電波と可視光の間の領域にある電磁波の一種で、両方の性質を併せ持つ光です。テラヘルツ光を利用した光デバイスの測定や、赤外レーザー光およびテラヘルツ光照射による近接場光を応用した顕微鏡などが発表されました。また、テラヘルツ光は生体組織の観測に適したエネルギー領域であり、タンパク質の反応機構を探る可能性も議論されました。
レーザー逆コンプトン散乱X線源を応用したX線イメージングでは、微小光源、広視野という光源性能によって、位相差、屈折を利用した軟組織、微小組織のイメージングが可能になります。その特徴を活かした微小血管のリアルタイム観測は病変の早期発見につながり、また、これまで見えなかったものが見えることで、医療機器の開発にも大きく影響すると考えられます。
今回は、コンパクトERLの光がもつ個々の特徴を利用したサイエンスについての議論が持たれました。加速器の試運転は2013年3月から開始する予定であり、「特徴あるサイエンスを提案して進めて行きたい。」と最後に河田ERL計画推進室長は締めくくりました。