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ウイルスの侵入を感知し免疫系を活性化するTLR8受容体の構造を解明

物構研トピックス
2013年3月25日

東京大学大学院薬学系研究科の清水敏之 教授らのグループおよび東京大学医科学研究所の三宅健介 教授らの研究グループは、ウイルスの侵入を感知して免疫系を活性化するTLR8受容体の詳細な三次元構造を世界で初めて解明しました。

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図1. TLR8の2量体構造
上図: リガンド非結合型のTLR8。
下図: リガンド結合型のTLR8 (CL097複合体)。2量体を形成するTLR8分子の一方を緑色で、他方を青色で示している。リガンドは2量体に2ヶ所で結合している。リガンド結合型では、C末端同士の距離が近くなっている。

ヒトの体には、細菌やウイルスなどの病原体に対する防御機構として自然免疫機構が備わっています。TLR受容体などのレセプター群は、病原体の感知する役割を担い、特に、TLR8およびTLR7はウイルス由来の一本鎖RNAを認識する受容体で、炎症、抗ウイルス応答を引き起こします。また、TLR7/8は、合成低分子化合物によっても活性化されることが知られており、TLR7/8を活性化または阻害する化合物は、抗ウイルス薬、がんに対する治療薬として使われています。
しかし、これまでTLR7/8がどのようにRNAまたは合成低分子化合物により活性化され細胞内へ情報伝達されるのか、具体的な機構は不明で、リガンド※1の結合位置・認識機構も未解明で薬物設計の指針をたてることは困難でした。

今回、研究グループは、TLR8によるリガンドの認識とシグナル伝達機構を明らかにするために、フォトンファクトリーのビームラインNE3A、およびSPring-8を利用し、X線結晶解析を行い詳細な三次元構造を明らかにしました。
その結果、リガンド結合型と非結合型は、いずれも2量体であり、リガンドと結合することでTLR8のC末端※2側が近接するように2量体が再構成されることが分かりました。これにより細胞内へシグナルが伝えられると考えられます。また詳細なリガンド認識機構も明らかになりました。

TLRの中でも、病原体由来のDNAやRNAなどの核酸を認識するTLR7、TLR8の立体構造が解明されたことは、抗ウイルス薬、がん免疫賦活剤などの開発につながると期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌Sciecneの3月22日号に掲載されました。
>>論文Structural Reorganization of the Toll-Like Receptor 8 Dimer Induced by Agonistic Ligands
>>東京大学プレスリリース


◆用語解説

  • ※1 リガンド

    ある受容体に特異的に結合する物質のこと

  • ※2 C末端

    タンパク質はアミノ酸が鎖状につながってできており、そのポリマー末端のアミノ基側で終わる末端をN末端、カルボキシル基で終わる末端をC末端という

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