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池田進名誉教授ら、日本中性子科学会より表彰

物構研トピックス
2015年12月15日

12月10日、11日に行われた日本中性子科学会 第15回年会にて、KEK研究支援戦略推進部(元物質構造科学研究所副所長)の池田 進 名誉教授が功績賞を、名古屋大学大学院工学研究科の鬼柳 善明 特任教授が学会賞を、京都大学化学研究所の岩下 芳久准教授が技術賞を受賞しました。功績賞は、広く我が国の中性子科学の発展に顕著な功績のあった者に、学会賞は、中性子科学の進歩発展に寄与しその業績が特に顕著な者に、技術賞は、中性子科学の技術的発展ならびに産業技術への応用において顕著な貢献を行った者またはグループに授与されるものです。

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右から、岩下芳久氏、池田進氏、鬼柳善明氏(写真提供:日本中性子科学会)

池田氏の受賞対象となった研究は「パルス中性子源を用いた物質中水素の量子状態観測」です。

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水素結合物質KHCO3の三次元中性子散乱データ
縦軸は励起エネルギー軸、奥行軸は水素結合に平行の運動量変化、水平方向軸は 水素結合に垂直な運動量変化を表している。白く表されている面は、中性子散乱 の等強度面を表している。

同氏は、KEKつくばキャンパスにて、世界初の実用パルススポレーション中性子源(ブースター利用施設:旧KENS、1980年初ビーム、2006年運転終了)の建設と、パルス中性子源を用いた物質科学研究推進や利用促進において中心的な役割を果たしました。特に、物質中の水素の存在状態の観測では、自身で開発したCAT-RAT分光器や日英協力事業で建設したMARI分光器を用いて水素貯蔵合金における水素ポテンシャルの系統的研究、水素結合物質における水素の基底状態、励起状態の波動関数の三次元空間分布の研究、水素結合物質に現れるフェルミ共鳴状態の研究、水素結合型誘電体で起きる転移温度の同位体効果のメカニズム解明など、物質中の水素の量子状態観測において顕著な成果をあげました。その他にも超流動ヘリウム4におけるボーズ凝縮の直接観察などの科学的成果をあげてきました。旧KENSは2006年にシャットダウンし、その研究活動は東海村のJ-PARCの中に移行していますが、この移行時期、物質構造科学研究所副所長、J-PARCセンター物質・生命科学ディビジョン副ディビジョン長として運営面から貢献してきました。この様な世界に先行したパルス中性子源の建設、中性子利用による水素科学研究への顕著な功績が日本中性子科学会功績賞に値すると評価されました。


鬼柳氏の受賞対象となった研究は「加速器中性子線源の研究・開発」です。

同氏は、北海道大学工学部の45 MeV電子線形加速器を用いて加速器中性子源の開発に関与し、世界で初めて固体メタン冷中性子源を完成させることに成功しました。冷中性子源は中性子のビーム強度向上に欠かすことが出来ないデバイスで、この技術は旧KENSだけでなく海外の施設でも採用されるなど、長きにわたって重要な役割を果たしてきました。2008年に稼働した大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)においてはパラ水素を用いた世界最高効率の冷中性子源の開発に成功し、世界最高のビーム強度を誇るMLFの中性子ビーム生成において多大なる貢献を果たしています。他にも旧KENSにおけるLAM分光器群の開発、ブラッグイメージングの開発など中性子利用においても業績をあげており、日本中性子科学会学会賞に値すると評価されました。


岩下氏の受賞対象となった研究は「磁場によるパルス中性子の光学的制御技術の開発研究」です。

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強度変調型永久六極磁石(modulating-Permanent Magnet Sextupole, mod-PMSx)と集束前後の中性子2 次元分布

同氏は、中性子の集光技術の一つである磁気レンズについてパルス中性子ビームに対応したレンズの開発を行いました。磁気レンズは中性子と磁場との相互作用を利用して中性子を集光させるデバイスですが、焦点距離は中性子の速度(波長)に依存するため、様々な速度の中性子を利用するパルス中性子ビームにこれを適用することはできませんでした。この問題に対し、同氏は物質構造科学研究所中性子科学研究系の中性子光学研究グループとの共同研究により、六極磁場強度をパルス中性子の飛行時間に応じて変調させる変調型磁気レンズを新たに開発し、広い波長範囲にわたって中性子の結像位置を一定に保つことに成功しました。この技術は中性子の利用をさらに広げる可能性を秘めており、日本中性子科学会技術賞に値すると評価されました。


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