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分子進化の新たな解析法を発見

物構研トピックス
2016年6月17日

東京大学分子細胞生物学研究所の堀越正美准教授、KEK物質構造科学研究所の千田俊哉教授、安達成彦特別助教の研究グループは、分子進化を評価する新たな解析法を提案し、古代生物からヒトに至る遺伝子制御システムの進化の様子を解明しました。

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今からおよそ38億年前、地球で最初の生命として細菌の様なものが誕生したと考えられています。それは単細胞生物で、核膜を持たず遺伝子がそのまま細胞膜の中に存在する生物だと考えられています。その後、約35億年前に真正細菌と古細菌が分岐し、27~19億年前には、遺伝情報を膜で包んだ核を持つ真核細胞が登場したと考えられています。驚くことに、現在生きている古細菌からヒトに至るまで、DNAの遺伝情報は殆んど同じ仕組みで読み出されています。またDNAに記載されている文字数は、ヒトでも750MB程度のデータ量しかありません。限られた情報量で複雑な生命活動をするには、巧妙な情報処理の仕組みが存在するはずです。

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PFで構造を決定した古細菌由来のTBP
上下でTBPの表裏になっている。表面の赤は酸性、青は塩基性を示し、全体で酸性に偏っていることが分かった。

単細胞生物であった頃の古代生物が化石として保存されている例は殆んど無く、そのDNAやDNA周辺の分子を直接比較検証することは出来ません。そこで現在の真核細胞や古細菌などがもつ遺伝子を読む仕組みに着目して比較しました。DNAに書かれている遺伝子の少し上流には「TATA」という配列が存在します。これは真核細胞や古細菌に共通のコードでここに遺伝情報を読み出す酵素の足場となるTATAボックス結合タンパク質(TBP)が結合します。もしDNAに結合できなければ遺伝情報を読むことができず、致命的になるほど重要なTBPですが、真核細胞、古細菌には存在し、真正細菌には存在しません。TBPの起源を知るべく、2008年にフォトンファクトリーで決定した古細菌TBPの構造を含め、多様な生物種でTBPを比較したところ、機能は全く同じであるにも関わらず、表面の塩基性の違いから、進化的に幅広く変化したことを示唆する結果が得られました。さらに詳細に進化の様子を調べるため、安達特別助教らは、遺伝子内部に存在するものを標準に比較する方法を新たに考案しました。

遺伝情報をコードするDNAでは、全く同じ配列が繰り返されることがあります。本手法は、1つの遺伝子内で生じた重複現象を利用するもので、重複して全く同じ配列を持つ状態を共通祖先と考え、変異によって両者の差が大きくなるほど共通祖先からの進化距離が大きいと定義、数値化して比較するものです。この手法で真核細胞と古細菌の34生物種について調べ、共通祖先から似ている順にランク付けしました。また遺伝情報を読む際にTBPに結合するTFIIBという因子についても同様に調べました。その結果、TBPとTFIIBのランク付けでは共に真核細胞より古細菌が祖先に似ていること、中でもメタン菌が最も祖先に似ていることが示されました。また、進化の度合いの比較から、TBPよりTFIIBの方が先に存在していたことが分かりました。

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本手法から得られたTBPとTFIIBに基づく共通祖先から近い順ランキング
dDRが共通祖先からの距離に相当する。両者共に、上位に古細菌、下位に真核細胞となったことから、古細菌の方が共有祖先に近いことが示された。
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本手法により書き換えられた新しい無根系統樹。赤色ほど共通祖先に近く、青色ほど共通祖先から遠いことを示す。

本手法は、分子進化の新たな評価手法となり、これまで相対的にしか評価できなかった進化の度合いを絶対的な評価で示すことを可能にします。今後は解析種を拡大したり、対象とする遺伝子を広げることで、生命が持つ分子機構の進化の解明を目指す予定です。この成果は英国の科学誌Scientific Reports(オンライン版)に掲載されました。

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論文情報
雑誌名:Scientific Reports
タイトル:"Uncovering ancient transcription systems with a novel evolutionary indicator"
著者:安達成彦、千田俊哉、堀越正美
DOI:10.1038/srep27922


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