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ミュオンS1実験エリアの分光器「アルテミス」のアップグレード

物構研トピックス
2016年8月26日

J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)の低速ミュオンビームライン(S1実験エリア、Surface Muon Beamline)にインストールされた分光器のアップグレードが行われ、計数率耐性が6倍に向上した。

S1-fig1.png

標準試料(Ag)のスペクトル
黒が旧版、赤がアップグレードしたASICによる信号。理想的には平らになるが、パルス状に来るミュオンからのイベント数え落としで時間ゼロ付近が下がる(左図)。これに検出器不感時間補正理論に基づいて計数率補正を施すが、従来の検出器では、回路由来の歪みが残っていた(右図黒点)。今回の検出器アップグレードで計数率耐性が6倍に向上し(不感時間τ=300→50ns)、回路由来のスペクトル歪みが消えたことが確認された(右図赤点)。

分光器の検出器(Kalliope)からデータ収集系は、KEK物構研・素核研・計算科学センターの共同開発であり、この検出素子のアナログ信号をデジタル信号に変換する専用IC(ASIC)をアップグレードした。従来のASICでは、一つの信号を受けてから300 ns程度の検出器不感時間(τ)があり、ビームの強度を十分に受けきれていなかった。またアナログ波形歪みのため、計数率補正をかけても測定スペクトルに歪みが残っていた。

これに対し、新しいASIC(ポールゼロキャンセル回路型Volume2014)では不感時間がτ=50 nsに短くなり、計数率補正後の歪みもなくなっている(下図右の赤点)。このアップグレードにより、S1分光器は当初計画した性能が出たため、ARTEMIS(Advanced Research Targeted Experimental Muon Instrument at S-line:アルテミス)と名付けられた。

アルテミス分光器電磁石や架台は、2013年から共同利用に供されているD1分光器と同じデザインであるため、D1分光器も同様のアップグレードが可能で、計数率耐性・スペクトル歪みの大幅改善が見込まれる。この作業は、2016年7月からの夏期作業期間中に実施予定である。

今回増強された計数率耐性により、MLFの1MW運で生成されるミュオン強度でも、通常の測定試料サイズ(20x20 mm程度)なら、スペクトルの歪みなく測定可能となった。


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