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「おたふくかぜ」感染のしくみを解明

物構研トピックス
2016年9月28日

九州大学医学研究院の栁雄介教授と橋口隆生准教授ら、KEK物質構造科学研究所の清水伸隆准教授を含む共同研究グループは、「おたふくかぜ」の原因ウイルスであるムンプスウイルスがヒトに感染するために利用する受容体の構造、およびウイルス糖タンパク質と結合した状態をフォトンファクトリー(PF)を利用して原子レベルの分解能で解明しました。

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図1 解明したムンプスウイルスと受容体の複合体
細胞表面にある受容体構造(左)にウイルス糖タンパク質HN(中央)が結合(右)することがきっかけなり、ウイルスがヒトの細胞に侵入します。(画像提供:九州大学 橋口隆生

「おたふくかぜ」は、ムンプスウイルスの感染によって発熱、耳下腺のはれや痛みなどを主症状とする全身性ウイルス感染症で、髄膜炎や感音性難聴、生殖腺炎などの合併症を伴うこともあります。国内では毎年数十万人の患者が発生し、そのうち0.1~1%の患者はムンプス難聴を発症していると推定されています。現在、抗ウイルス薬は存在せず、事前のワクチン接種、罹患後は対症療法が行われています。

今回、研究グループはウイルス学的実験と構造生物学的実験、コンピュータ科学計算、生化学的実験を組み合わせて、ムンプスウイルスがヒトに感染するために利用する受容体の構造と、ウイルス表面にある糖タンパク質HNと受容体の複合構造を解明しました(図1)。これらは鍵と鍵穴の関係にあることから、立体構造が詳細に分かったことで結合を阻害する抗ウイルス薬の設計指針になります。

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図2 ムンプスウイルスの抗体結合部位と12種類の遺伝子型に依る構造の違い
(画像提供:九州大学 橋口隆生)

また、12種類あるムンプスウイルスについて、構造上の違いを比較しました(図2)。すると違いの大きい領域が、抗体とウイルスが結合する部位と一致することが確かめられました。これは、ワクチン接種した人や、過去に感染歴があるにも関わらず再びウイルスに感染してしまう現象を裏付けます。これら差異まで詳細に解明できたことで、12種類で保存する領域に作用する抗体をつくるワクチンといった、ワクチン改良も期待されます。

九州大学発表のプレスリリースはこちら

論文情報
雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of USA
論文名:“Trisaccharide containing α2,3-linked sialic acid is a receptor for mumps virus”
DOI: 10.1073/pnas.1608383113
著者名:Marie Kubota, Kaoru Takeuchi, Shumpei Watanabe, Shinji Ohno, Rei Matsuoka, Daisuke Kohda, Shin-ichi Nakakita, Hiroaki Hiramatsu, Yasuo Suzuki, Tetsuo Nakayama, Tohru Terada, Kentaro Shimizu, Nobutaka Shimizu, Yusuke Yanagi & Takao Hashiguchi


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