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上村洋平氏、日本放射光学会奨励賞を受賞

物構研トピックス
2017年2月 7日
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授賞式での上村洋平氏(右)。左は日本放射光学会長 石川哲也氏(理化学研究所)。(写真:日本放射光学会提供)

自然科学研究機構・分子科学研究所助教の上村洋平氏が、第21回日本放射光学会奨励賞を受賞し、2017年1月7-9日に神戸市で開催された第30回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウムで表彰式ならびに受賞講演が行われました。この賞は、日本放射光学会員である35歳未満の若手研究者を対象に、放射光科学に関する優れた研究成果に対して授与されるものです。

受賞対象となった研究は「超高速時間分解XAFSによる不均一触媒のメカニズムの研究」です。自動車の排ガス浄化や様々な化学工業で用いられている触媒の多くは、固体表面で化学反応が進行する不均一触媒です。放射光を用いたXAFS法は、試料の形状に制約がほとんどなく、多くの共存元素の中で特定の元素に着目し、その周りの構造や電子状態を知ることができるので、不均一触媒の研究に適した手法です。しかし通常のXAFSでは静的な情報しか得られないため、化学反応が「いつ」「どこで」「どのように」進行するのかという、触媒にとって重要な情報を知ることはできません。上村氏は、波長分散型XAFS(DXAFS)法や、ポンプ・プローブXAFS法などの様々な時間分解XAFS法により、触媒が反応する過程を追跡し、反応メカニズムに迫る研究を行いました。そのひとつが、可視光応答型光触媒WO3の光励起過程です。PFのAR-NW14Aと、X線自由電子レーザーSACLAを用いたポンプ・プローブXAFS法により、この触媒がまず500フェムト秒で電子状態の変化を起こし、さらに約200ピコ秒遅れて構造変化が起こるという、多段階の過程を経て反応していることを明らかにしました。これは、時間分解能の異なる多様な時間分解XAFS法を組み合わせて初めて明らかになる成果であり、放射光科学、および触媒化学研究両面において独自性の高い優れた業績であることが高く評価されました。

上村氏は、博士課程在籍時の2007年度~2009年度には特別共同利用研究員として、また2010-2011年度にはポスドクとしてフォトンファクトリーに在籍し、その間に多様な時間分解XAFS法を用いた研究を精力的に実施しました。上村氏は受賞講演で「触媒と基質の反応の全容を解明するには、別な手法も含めて様々な時間スケールで追跡する必要があると思います。」と話しました。実現が期待されている次世代放射光源の利用も見据えて、触媒のダイナミクスを追跡する挑戦が今も続いています。

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