11月7日、東京・北青山にある日本オラクル株式会社の社員食堂をお借りして、第2回KEKサイエンスカフェ@青山を開催しました。 今回のゲストスピーカーは、手染め職人の青木 正明 氏と、KEK 物質構造科学研究所 構造生物学研究センター センター長の千田 俊哉 教授です。
2人はこの日のために染めたというお揃いのシャツで登場しました。
水玉部分以外は黒っぽく見えますが、よく見ると若干色が違っています。
青木氏が、まず全体を黄色と薄紅色に染めた後、水玉部分を残してどちらも同じ藍で染めたと型染めの手法を簡単に実演すると、会場からは「なるほど~」と声が上がりました。
また、条件を揃えて藍で同時に染めた絹と綿では、綿の方が染まりやすく、昔から庶民の生活に欠かせない色であったことが紹介され、
千田教授が、セルロース(綿)とインディゴ(藍)の分子構造の図から、なぜ綿がよく染まるかを構造生物学的に説明しました。
一方、千田教授からは生物学の新しい流れとして、「エピジェネティクス」が紹介されました。
従来のどんな遺伝子を持っているか=「蛙の子は蛙」という考えから、「氏より育ち」へと考え方がシフトしているというのです。
個々の遺伝子が持つスイッチのONとOFFは個人の行動によって変わるもので、
それが繰り返され生活習慣となると、スイッチの挙動のパターンが遺伝するかもしれないという考え方です。
「親の暴飲暴食が子どもに影響するかもしれません」との言葉に、唐揚げとビールを楽しみながら聞いていた参加者からは苦笑いが…。
細胞が機能を継承する仕組みにはヒストンというタンパク質が重要な役割を担うことや、
千田教授が率いる構造生物学研究センターでは、タンパク質を結晶化しフォトンファクトリーの放射光を使ったX線構造解析により立体構造を調べていることが紹介されました。
有機化学や生物学で扱われる対象であっても、分子・原子レベルで見ると物理現象として理解できるので、 分子構造のかたちを知ることが、病気の原因の解明や創薬につながっていきます。 例えば、繊維と染料の関係のように、試してみなければうまくいくかどうかが分からなかった事象や、 複雑な生体内の現象も、構造生物学によって謎がひとつずつ解明されるようになるかもしれません。構造生物学の今後の発展が期待されます。