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東京大学大学院薬学系研究科の研究グループ、 自然免疫受容体(TLR8)の活性化を抑制する機構を解明 ~自己免疫疾患治療薬の開発に期待~

物構研トピックス
2017年11月27日

東京大学大学院 薬学系研究科の清水 敏之 教授、丹治 裕美 大学院生、大戸 梅治 准教授、コロラド大学、清華大学の研究グループは、ウィルスや自己由来のRNAを感知して免疫系を活性化するTLR8タンパク質が、阻害剤によって活性化が抑制される機構を、世界で初めて明らかにしました。

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図1. TLR8の各構造
左から、リガンド非結合型TLR8、阻害剤結合型TLR8、刺激剤結合型TLR8の2量体構造。
2量体を構成する TLR8分子の一方(TLR8)を緑色、他方(TLR8*)を青色で示している。
本研究に用いた阻害剤は、2量体界面の2箇所に結合しており、
リガンド非結合型構造に類似した不活性化型構造だった。
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図2. 阻害剤結合部位の拡大図
TLR8/CU-CPT8m複合体(左)およびTLR8/CU-CPT9b複合体(右)の阻害剤結合部位。
阻害剤、TLR8、TLR8*の炭素原子をそれぞれ黄色、緑色、水色で、酸素原子を赤色で、
窒素原子を青色で表示している。

自然免疫は病原微生物感染に対する重要な生体防御システムであり、宿主のセンサーが病原体由来分子を認識することで誘導されます。 このようなセンサーの中で中心的な役割を果たすのがToll様受容体(Toll like receptor: TLR)です。 TLR8は一本鎖RNAの受容体であり、TLR8が過度に応答する現象は、自己免疫疾患に関係するとされています。 そのため、TLR8を不活性化する阻害剤は、自己免疫疾患治療薬として期待されていますが、阻害剤がTLR8を不活性化する仕組みは、明らかになっていませんでした。

フォトンファクトリーのPF-AR NE3AおよびPF BL-5AにおけるX線結晶解析で、阻害剤(CU-CPT8mおよびCU-CPT9b)とTLR8との複合体の立体構造を調べたところ、 「阻害剤結合型TLR8」は「リガンド非結合型TLR8」と類似した不活性化型2量体を形成していました(図1)。 阻害剤は、不活性化型2量体にのみ存在する結合部位2箇所に結合しており、特徴的な相互作用により認識されていました(図2)。

本研究に用いた2種類の阻害剤は、TLR8の不活性化型2量体構造を安定化することで活性を抑制することが明らかになりました。 本知見は、構造解析によってはじめて得られたものであり、今後TLR8を標的とした自己免疫性疾患治療薬の開発に寄与すると考えられます。

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