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物構研 年頭挨拶

物構研トピックス
2017年1月13日

新年、明けましておめでとうございます。

物質構造科学研究所(物構研)は、放射光、中性子、ミュオン、ならびに低速陽電子の量子ビームを先端的・複合的に利用可能な、物質・材料・生命科学の研究拠点として、国内外の基礎から応用にいたる広範な分野における研究者の自発的な研究と教育を推進し、人類と社会の継続的発展に向けて活動しています。

このような、物構研の理念はなかなか一般の人にはなじみにくいかも知れません。物構研はどのようなことをしているか、もう少し身近な例でお話ししたいと思います。

ある生命保険会社が小学生以下の幼児・児童を対象に行った2016年度の「大人になったらなりたいもの」アンケート調査結果がお正月に発表され、男の子のランキングで「学者・博士」が前年度の8位から2位に急浮上したとのことです。これは3年連続の日本人ノーベル賞受賞効果があると思います。余談ですが、男子のトップは7年連続で「サッカー選手」で、女子のトップは20年連続で「食べ物屋さん」。中でもケーキ屋さんやパティシエの人気が高いとのことでした。

物構研で、これらのノーベル賞受賞の下支えとなった研究が行われていたことはあまり知られていないのではないでしょうか。例えば、2016年の医学生理学賞を受賞された大隅良典先生の「オートファジーの発見」や、2014年の物理学賞を受賞された赤崎勇先生や天野浩先生、中村修二先生の「青色発光ダイオードの発明」に関連する研究が、物構研の放射光施設フォトンファクトリーで行われており、受賞された先生も共著者となった研究論文が何編か出版されています。さらには2009年の化学賞「リボソームの構造と機能の研究」を受賞されたアダ・ヨナット先生は、自らフォトンファクトリーで実験をされ、リボソームという蛋白質の構造に関する研究をされています。

他方、広く一般の人達に身近な研究も行われています。例えば広島大学の上野聡先生が長年取り組んでおられる、チョコレートの固め方と食感の関係を調べる研究です。これは、固め方によりチョコレート内の分子の並び方(結晶型)が変わり、物性が変化するという、歴とした食品物理学という学問でありながら、女子の憧れの職業であるパティシエにも関係が深く、科学になじみのない方にも関心を引く研究です。この内容はごく最近、「チョコレートは何故美味しいか」という文庫本にまとめられました(集英社文庫)。また髪の毛に関係する研究で、キューティクル層に含まれる亜鉛の分布とハリコシの関連を調べ、製品化されたものも身近な研究の一つです。

もちろんこれ以外にも物構研では様々な研究が行われており、すぐに役に立つかわからない研究も数多くありますが、研究者の好奇心をかき立てるものです。このような研究の重要性や面白さが広く理解され、更には、大きくなったら物質・材料・生命科学の研究をやってみたいという未来の研究者を増やすことも物構研の大きな役割です。そして、大きくなってやりたいこと、なりたいことの上位ランキングに、研究者や、物質・材料・生命科学の研究が、継続して上位になることを目指していきたいと思っています。

日本はこれから、人口減少が顕在化していきます。人類は今まで人口増加による社会問題を産業革命などのイノベーションで切り抜けてきました。これからは少ない人口で起こる社会問題を、やはりイノベーションで切り抜けていく必要があります。そのイノベーションの成否は若い人達の、新鮮なチャレンジ精神にかかっています。何か今までとは違う新しいことに恐れずに取り組むことが求められています。物構研は様々な研究手段を持っており、アイデアとチャレンジ精神さえあれば、イノベーションへとつながる研究を自ら提案し、行っていくことが出来ます。

平成24年に所長に就任して以来のモットーは、「和して属さず、本質を語る」です。皆と仲良く(「和して」)、しかしなれ合いになることなく、徒党を組むことなく(「属さず」)互いに切磋琢磨して、本当に重要なことは何かを常に考えつつ(「本質を語る」)物構研の理念を実現させていきたいと考えています。

今年も、物構研IMSSをどうぞよろしくお願いいたします。

最後になりますが、本年も皆様のご健勝とご発展を祈念いたします。

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