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私にスピンをわからせて! ~初めの1回転「スピンはめぐる」 ~

物構研トピックス
2018年8月 6日

北村 源次郎:野趣あふれる美猫。上田城で母と運命の出会いを果たし、北村家の猫となったことから、真田信繁の幼名をとって源次郎と名付けられた。

母上:源次郎の母。文系だが、素粒子とスピンに興味がある。昆虫・植物が大好きで、KEK構内で撮った珍しい虫の写真を持ち歩く。
プロフィールはKEKのひと「山を旅して世界を知った 北村節子さん」に詳しい。


拙者は北村家の源次郎と申す。と言っても、猫である。
ある日、いつものように母上の帰りを待っていると、いつもとは違った毛色の本を買い込んできた。表紙には「素粒子」だとか「スピン」だとかいう文字がある。ところが本来夜更かしの母上が、その本を3ページめくったところで眠り込んでいるではないか。寝言で「スピンって何よ?!」と叫ぶのも、拙者はしかと聞いた。
これは母上の一大事! スピンとは何奴ニャ?
拙者は母上にやさしく教えてくれるお方を探して旅に出た。すると何と、スピンとやらに困らされている人間はたくさんいるそうじゃないか。しかも「スピン」って、フィギュアスケートの技でもお菓子でも小説でもなくて、量子力学の用語?母上は、たくさんの人から少しずつ学んでみたいと言っているし、指南役探しの旅は長くなりそうだ。
もちろん、母上が納得したら拙者から褒美を遣わすつもりだ。(何がいいかニャ~?ネズミとか?)
ただし言っておくが、母上は高校では物理を回避したとか。「分からなさ」では手強いぞ~。

初めの1回転「スピンはめぐる」

今回の指南役:小嶋 健児(こじま・けんじ)さん
「スピンはめぐる」を初めて読んだのは学生時代。ちょうどそのころに原子核研究所の夏休み実験でミュオンの寿命を測ったという。当時は、自分がミュオンを使う研究者になるとは思っていなかった。

今回の教科書
(著者:朝永 振一郎 1974年初版発行)
「スピンはめぐる【新版】成熟期の量子力学」 
2008年6月 みすず書房


素粒子のスピンって、よく「コマのように」という説明を読むんですけど、そんなの見えるわけないですよね?
確かに、見えませんね。
じゃあ、どうして「スピン」という言葉が出てきたの?
運動そのものは見ることができなくても、関連する現象を見て「こんな現象を説明できる動きとは何か」と、推理することはできますよね。
へぇ、物理の世界にも推理があるのね~。未知の世界で起こっていることに理由をつけていったということかな。
そうそう。「スピンはめぐる」の「電子スピン」のところ(初めの3話)を読むと、昔の偉い先生たちが右往左往しながら解釈していく様子を追体験できますよ。
じゃあ、そのきっかけになった現象ってなんだったの?
原子の発光スペクトルが連続でなかったこと。
おや、また私には耳新しいお話。原子の発光スペクトルってなんでしょう?
太陽光をプリズムに当てると虹の色が現れます。七色っていうけど、色の境目が分かりにくいですよね。それは、連続的に変化しているからなんです。
でも、例えば蛍光灯の光だと、連続していないとびとびの色が見えます。
物構研に遊びに来れば「ポケット分光器」や「虹をつかまえるシート」で見ることができますよ。
あら、ほんとだ。色がとびとびに見える!
かつての物理学者たちは、水素などのガス中で放電した場合にもそんな線スペクトルが出現することに気づいたんです。水素原子の発光です。
そして、水素が出す光のパターンを理解するのに、原子の周りの電子の「公転」運動だけでは説明できない、ということになってきました。
「公転だけでは説明できない」ってどういうこと?
電子は原子核の周りを回っている。これは公転と言えますよね。
電子は原子核からの引力と遠心力のつりあう位置で回っていると考えていい。
ちょうど、太陽と地球や火星の関係ね。
そう。しかし、ここからは「量子力学」という新しい力学の出番です。
電子が粒子であると同時に波の性質をもつと考えると、安定して回り続けるためには、公転の円周の長さは波の波長の整数倍でなければならないという制限がつきます。
よく分からないけど、「整数倍」ってことは、デジタルってこと?
そのとおり!公転の軌道の半径もデジタルに変化するんです。 惑星なら公転を続けながらじわじわと軌道が変わるものだけど、電子の場合は隣の軌道に移るときは、一気に飛び移る。
電子は、軌道から軌道にジャンプしてるんだ。
例えば、原子核から遠い軌道から、より近い軌道に移るとしたら、励起状態から基底状態に近づくから、エネルギーが余ってしまう。
原子はそのエネルギーを光として放出します。 原子を光らせているのは電子の運動そのものなんです。
電子は光りながら飛び降りるのか~。じゃあ、公転でとびとびの色は解決したようなものね。
ところで、スピンはどうなったんでしたっけ?
水素原子のような単純な原子では線スペクトルの波長も正確に計算できるようになって、解決したと思ったんだけど、 詳しく観測できるようになって、それぞれの線スペクトルを拡大してみると…さらに数本の線に分裂していることがわかったのです。
謎が解けたと思ったら、中からまた同じような謎が出てきた。
こんどは電子のデジタル「公転」を理由にできないから、デジタル「自転」を思いついた。それを「スピン」と呼んだのが始まりのようです。
なるほど、そういう現象面から「スピンしていると見なす」というひとつのいわば「現象解読」があったのね!(小さくガッテン)


ふ~ん。スピンって考えにたどり着くまで大変だったんだな、ってことは分かった。今回はスピンをめぐる歴史のお話だったニャ。
母上も小さいけどガッテンしてるし、疑問も次々と湧いてきて、ますますスピンに興味を持ったみたい。
小嶋さんには褒美を遣わさニャ。ネズミ最近採ってないけど、喜んでくれるかなァ。

それにしても、この本、難しいニャ~。眠くなる~。狩りの前にひと眠り…(= ᵕ . ᵕ =)zzz


>> 第2回転「スピンの正体とは?」

参考ページ:物構研 スィソペディア 水素百科事典

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9/2(日)フォトンファクトリーに来ると、「虹をつかまえるシート」を作ることができます。もちろんおみやげにできますよ。