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茨城大学の研究グループ、J-PARC MLFの中性子線とKEK PFのX線を使ってタンパク質解析

物構研トピックス
2019年10月 3日

茨城大学 フロンティア応用原子科学研究センターの山田 太郎 産学官連携准教授らの研究グループは、J-PARC MLF BL03 茨城県生命物質構造解析装置 iBIX を使用して、大きな結晶格子を持つタンパク質「マンガンカタラーゼ」の結晶構造解析に成功しました。結晶格子とは結晶の繰り返し単位構造のことで、マンガンカタラーゼの結晶格子は 3辺が各々13.3 nm。中性子ビームによって構造決定されたタンパク質の中で最大で、これまでの記録を2倍あまり更新しました。

マンガンカタラーゼの単結晶
高度好熱菌 Thermus thermophilus 由来のタンパク質で、過酸化水素を水と酸素分子に分解する反応を触媒する酵素

タンパク質の反応の仕組みを解明するには反応に関与する水素の観測が重要であり、中性子構造解析は非常に効果的な手法です。 一般に結晶格子の体積が大きくなると精度よくデータを得ることが困難になりますが、中性子線はX線に比べ強度が小さいためより難しくなります。
今回、茨城県生命物質構造解析装置 iBIX では、専用に開発した中性子検出器を使用して得られた回折データを積分する新たなソフトウェアを開発しました。 さらに、この中性子データとフォトンファクトリー BL-17A タンパク質結晶構造解析ステーションで得た X線回折データを利用することにより、マンガンカタラーゼ中の重水素原子を明瞭に観測しました(下図)。

この結果はタンパク質の中性子結晶構造解析の可能性を大きく広げるもので、今後、より多くの種類の酵素反応に関わる水素原子の役割解明や重要なタンパク質複合体の相互作用における水素原子の観測などの基礎研究を通じて、産業用酵素開発や医薬品設計などに貢献することが期待されます。

マンガンカタラーゼの結晶格子
格子長13.3 nm (133 Å)の結晶構造が報告されている
反応部位で観測された重水素原子(水色)の様子
J-PARC MLF BL03 生命物質構造解析装置(iBIX)
PF BL-17A タンパク質結晶構造解析ステーション

ビームラインを疑似体験したいなら…


詳しくは… 茨城大学のプレスリリース:中性子構造解析として最大の格子体積を持つタンパク質の解析に成功

関連ページ: 茨城県中性子ビームライン(Ibaraki Neutron Beamline)生命物質構造解析装置(BL03/iBIX)
J-PARC MLF Next to Meet@MLF BL03 iBIX 茨城県生命物質構造解析装置