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新井 正敏 名誉教授が 第17回 日本中性子科学会 功績賞を受賞しました

物構研トピックス
2019年12月 3日

11月20日、2019年度 日本中性子科学会 総会が開催され、KEKの新井 正敏 名誉教授が、第17回(2019年)功績賞を受賞しました。日本中性子科学会 功績賞は、広く日本の中性子科学の発展に顕著な功績のあった者に対して授与されるもので、新井 正敏 名誉教授は、これまで一貫してパルス中性子散乱に関する装置開発、施設の建設、さらにその運営に尽力してきたことが高く評価されました。授賞タイトルは「パルス中性子の活用に関する先駆的研究と先導的役割」です。

新井名誉教授の中性子科学分野での活躍は東北大学大学院生時代に始まりました。KEKつくばキャンパスのパルス核破砕中性子施設(KENS)は1980年に稼働を開始しましたが、KENSの初ビームと同時に稼働した世界初のパルス中性子小角散乱装置(SAN)の開発には大学院生として参加していました。そして1985年にKEKの助手に着任、1989年に本格稼働した日本初のチョッパー型中性子非弾性散乱分光器(INC)の開発に携わりました。さらに加速器グループと協力して加速器とチョッパーの同期手法を開発するとともに、データ解析ソフトウェアの開発も進め、パルス中性子の特性を最大限に活用した中性子非弾性散乱実験法の確立を主導しました。

ウランターゲットの冷却系の施設検査を受けているところ
左が三沢 正勝 助教授(当時)、右が新井 正敏 助手(当時)1985年ころ

その後、日英中性子散乱協力事業でラザフォード・アップルトン研究所のISIS実験施設に長期滞在し、チョッパー型中性子非弾性分光器(MARI)の開発を主導します。1992年からは神戸大学に籍を置きますが、毎週のようにKEKに赴き、物性研究によってMARIの有用性を実証しました。特にスピンパイエルス物質CuGeO3の研究では、その磁気励起スペクトルの全貌を解明し、量子効果を反映した2スピノン連続励起状態の観測に成功しました。

1996年にKEKに教授として着任後は、MW(メガワット)クラスのパルス中性子実験施設の実現のために努力を惜しみませんでした。当時、陽子を用いた核破砕反応で発生する中性子数は陽子エネルギーが1GeV以上では頭打ちになるという計算データから、陽子加速器のエネルギーを1GeV以上にしても無意味と考えられていましたが、KEKの12GeV陽子加速器を使って新井教授らが行った実験によって中性子発生数は12GeVの陽子エネルギーまでほぼ比例することが明らかになりました。現在のJ-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)で3GeVの陽子エネルギーが選択されたのはこの実験結果に拠っています。
新井教授はJ-PARCの計画段階から関わり、建設開始後は物質・生命科学ディビジョンの副ディビジョン長、ディビジョン長として施設の建設と運営、東日本大震災からの復興やハドロン実験施設事故からの回復などの極めて困難な局面において組織をまとめ、最前線で舵取りをしました。特にチョッパー型中性子非弾性分光器(4SEASONS)をはじめとする世界トップクラスの中性子実験装置の開発ではリーダーシップを発揮し、高品質データを取得するための中性子パルス整形の手法および自由度の高い実験データの処理を可能とするイベントレコーディング手法の開発と実用化にも大きく貢献しました。

第17回 日本中性子科学会 各賞授与式(2019年11月20日 台湾の墾丁 (ケンティン)において)

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