今年度、大学ではオンライン講義が当たり前になったところも多いようですが、フォトンファクトリー(PF)では秋以降の運転を計画通り行っています。PFに実験に来る研究者の中には、大学の講義を受け持つ先生方も大勢います。この状況を活かして、PFでの実験日程の間に遠隔授業を行ったり、見学の代わりに先生だけPFを訪れ、放射光実験の現場を紹介する授業を行った例をご紹介します。
PFで大勢のユーザーが実験中だった2020年11月、フォトンファクトリー アドバンストリング(PF-AR)NE7Aの実験ハッチ近くで、近畿大学の矢野 陽子 准教授による理工学部2年生向けの「熱力学」のオンライン講義が行われました。COVID-19の影響で実験に来られない研究グループがあったため矢野先生のグループの実験期間が普段より長くなったことと、大学の講義がオンラインになっていることから、PFから授業をするならと生中継を思いついたそうです。矢野先生はいつも講義の冒頭に研究者の日常を紹介する「オープニング雑談」の時間を設けているそうですが、「来週はPFから実験施設のようすをお伝えします」と予告して来たとのことでした。
矢野先生はスライドを使いKEKやPFについて説明し、自身のPFでの研究内容を詳しく紹介した後、タブレット端末を持って実験ハッチに入り、実験装置の試料まわりや、ドアを閉めて実験を開始する様子を見せていました。その後、熱力学の講義が始まりました。
講義のあと、受講した学生から「貴重な内部を見せて頂いて、とても面白く見ているのが楽しい中継でした!秘密基地みたい」という感想が届いたそうです。
講義内で紹介されたPF-AR NE7Aでの研究成果はこちらです。
KEKプレスリリース 2020/08/11 世界初!「マランゴニ対流」による分子のリズミカルな運動を観測生命活動をつかさどるリズムの起源に迫る
関連投稿:物構研facebook 2020/11/20 近畿大学の矢野先生がPF-ARからオンライン講義
関連ページ:近畿大学
学期の締めくくりの授業をPFから届けた先生がいます。信州大学で1年生の授業を担当している安達 弘通 准教授です。安達先生はかつてPFのスタッフで、以前は授業の一環としてPF見学を取り入れていました。
安達先生の講義「教養としての物質科学」は、文系理系を問わず様々な学部の学生が受講することができますが、今期はおよそ9割が工学部や繊維学部などの理系の学生でした。PFからの授業は2021年1月に行われ、約50名が参加しました。学生にはあらかじめ「X線を使って物質の構造を調べる方法」についてレポート課題が出されていたとのことです。
安達先生は講義の中で、レポートの答え合せを兼ねて、X線回折の説明とX線回折実験が効率的に行える放射光について詳しく解説しました。
講義の後半には、KEKの紹介があり、ドライブレコーダーを活用した動画でKEKの加速器がいかに大きいかを伝えました。この授業のためにあらかじめ撮影しておいた、つくばキャンパス内の長い直線加速器や大きな円形加速器に沿った道路を走る映像でした。
その後、小型カメラを片手に歩いてPFの実験ホールを映し、実験ハッチの中のX線の制御装置や実験装置の説明をしました。PF BL-3Cを中心に詳しい説明もあり、物質科学研究の現場を伝えたいという思いが伝わってくる授業でした。
講義後の学生からのレポートでは、「対面授業ができない中でリアルタイムで普段なら入れない実験施設について知ることができるのがオンライン授業ならではで、おもしろかった」「(授業で習った)ブラッグ条件やローレンツ力などが、応用され使われていることに感動した」「様々な機械やアルミホイルで巻かれた粒子の通り道など、いかにも実験施設という感じでワクワクした」など様々な感想が聞かれたそうです。
関連投稿:物構研facebook 2021/01/22 フォトンファクトリーからの遠隔授業リポート
関連ページ:信州大学
関連ページ:物構研放射光実験施設 フォトンファクトリー