ミュオン科学研究系の梅垣いづみ氏が日本物理学会の若手奨励賞を受賞しました。オンラインで開催された日本物理学会2023年春季大会で、3月22日(水)に受賞記念講演を行いました。この賞は将来の物理学を担う優秀な若手研究者の研究を奨励し、学会を活性化するために設けられました。
受賞題目は「ミュオンビームを用いたリチウムイオン電池内部のリチウムの拡散運動と金属析出の検出技術の確立」です。梅垣氏は、負ミュオンが発するミュオン特性X線を観測することで、リチウムイオン電池に用いられる黒鉛負極に析出した金属リチウムの検出に成功しました。狙った深さに止められるミュオンビームの特性を活かし、電極を覆うラミネート容器を透過して、非破壊で金属リチウムを選択的に検知できることを実証しました。
また、ミュオンビームを使ったミュオンスピン回転緩和法(µSR)を活用し、正極のみならず負極材料(グラファイトとLi4Ti5O12)へ研究を展開しました。さらにLi4Ti5O12では負のミュオンビームによるµ-SRと併せて実施することで、観測された動的挙動が主にリチウムイオンによるものであることを実証しました。
これらの手法は蓄電池以外の分野にも応用可能で、物理学だけでなく化学分野との新しい学際研究を開くことが期待されます。
受賞対象の研究テーマは、名称こそ「確立」となっていますが、まだまだ研究途上だと考えています。µSR法によるリチウムイオン拡散の測定も、ミュオン特性X線を用いた元素分析によるリチウム金属析出の検出技術も、さらなる発展性が見込めるという点で評価いただいたのだと思います。
今後は、前者は実電池へ適応、後者はイメージングへの応用を進めていきたいと考えております。この賞を励みに、これからもミュオンビームの特性を活かした研究に取り組んでいきたいと思っております。協力くださった全ての皆さんに感謝申し上げます。