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放射光実験施設の間瀬 一彦 教授が日本表面真空学会学会賞 を受賞

物構研トピックス
2023年5月31日

写真1.授賞式における間瀬氏(右)。左は福谷克之日本表面真空学会学会長

物質構造科学研究所 放射光実験施設 基盤技術部門の間瀬 一彦(ませ かずひこ)教授が、今年度の日本表面真空学会学会賞を受賞しました。

日本表面真空学会学会賞は、「表面・真空科学において相当期間にわたって高い水準の業績を挙げることにより、本会に貢献した功績の顕著な個人」に与えられる賞です。間瀬氏の受賞業績は、「コインシデンス分光法による表面ダイナミクスの研究および表面物性に基づいた新規非蒸発型ゲッターの開発」です。2023年5月20日(土)に開催された2023年日本表面真空学会通常総会のあとに表彰式が行われました(写真1)。

受賞理由となった研究内容

表面に軟X線を照射すると、1)内殻イオン化、2)オージェ過程、3)イオン脱離といった現象が短時間で起こります(図1)。この一連の現象を解明するには、表面から放出される内殻光電子、オージェ電子、イオンを同時に測定(コインシデンス測定)する必要があります。間瀬氏は、電子-電子-イオンコインシデンス分光装置(図2)を世界に先駆けて開発し、この装置を用いて表面に軟X線を照射したときに起きる一連の現象の詳細を解明しました。この研究は生体の放射線損傷のメカニズムの理解などに役立ちます。

図1.表面に軟X線を照射したときに起きる現象

図2.電子-電子-イオンコインシデンス分光装置の模式図

コインシデンス分光による表面研究を行っていた間瀬氏は、2011年3月11日に起きた東日本大震災を契機として、研究テーマを大きく変更しました。国内の原子力発電所が全て停止し、今後は限られた電力で日本の産業を支えなくてはならないことは明らかでした。そこで今後は省エネルギー真空ポンプの開発が重要と考え、非蒸発型ゲッターの研究に取り組みました。非蒸発型ゲッターは、超高真空中で加熱すると反応性の高い表面が生成し(活性化)、室温で残留ガスを排気する材料のことです。間瀬氏は、活性化温度が150℃以下と低く、ベーキングと大気導入を繰り返しても排気性能が低下しない非蒸発型ゲッターの開発に取り組み、2016年11月に無酸素パラジウム/チタンと名付けた新しい非蒸発型ゲッターを開発して、特許を申請しました。さらに基礎研究を進めるとともに、真空機器メーカーと協力して、無酸素Pd/Ti蒸着非蒸発型ゲッターポンプを製品化しました。この研究に関しては物構研ハイライト(2019.05.31)に詳細が報告されております。

受賞の感想

「このたびは、日本表面真空学会学会賞を受賞し、誠に光栄です。コインシデンス分光研究は、田中慎一郎先生(現大阪大学 産業科学研究所)、永園充さん(故人)、無酸素Pd/Ti開発は菊地貴司さん(KEK専門技師)、宮澤徹也さん(現株式会社神戸製鋼所)など多くの共同研究者の協力と、科研費やJSTさきがけなどさまざまな外部資金の支援で実現したものです。スペースの関係で、全ての共同研究者、外部資金を紹介できなかったことをおわびします。今後も時間の許す限り表面科学、真空科学技術の発展に貢献したいと考えております。どうぞよろしくお願いします」

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