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人工カプセルでタンパク質の生け捕りに成功

物構研トピックス
2012年10月 2日

東京大学の藤田 誠教授、自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンターの加藤 晃一教授らは、人工的に作り出した直径7ナノ(ナノは10億分の1)メートルのカプセル内部に、タンパク質を丸ごと閉じ込めることに成功しました。この構造は、大型放射光施設SPring-8およびKEKフォトンファクトリーのビームラインNE3Aで収集した結晶回折データを基に、理化学研究所 放射光科学総合研究センターの高田 昌樹 副センター長、熊坂 崇 副主席研究員のグループにより結晶中での分子構造が解析され、人工カプセルにタンパク質が包み込まれた様子が解明されました。

図1 タンパク質を丸ごと閉じ込めた球状物質の合成方法。

自然界では、タンパク質やDNAなどの生体分子が、ウイルスの殻などの巨大なカプセル状の物質に閉じ込められて構造や活性が制御されたり、必要とされる時まで貯蔵されることが知られています。人工的な化学現象でも、中空のカプセル状分子が、他の分子を内部に閉じ込めることが知られており、食品や材料分野で応用が進んでいます。しかし、従来の人工カプセル分子は十分に大きなものができず、タンパク質のような3~10ナノメートルサイズの大きな分子を閉じ込めることはできませんでした。

藤田教授らは、これまでにも金属イオンや有機化合物をパーツとした球状分子を、自己組織化によって合成することに成功してきました(過去の紹介記事へ)。今回、球状分子内にタンパク質を閉じ込めるため、予めパーツの一部にタンパク質を結合させ、合成しました。

そして、得られた構造体について、最先端のNMR※1や、放射光とMEM※2などを利用した単結晶構造解析※3により構造を解析、世界初の「タンパク質を丸ごと閉じ込めた人工カプセル」が、用いた原料に対して100%の効率で生み出されたことが分かりました。

図2 (左)MEMを併用した単結晶構造解析により明らかになったタンパク質の電子密度マッピング。
(右)シミュレーションしたタンパク質の構造。

自己組織化は、複雑な構造、物性を持つ分子を思い通りに設計して作り出すことができる新しいものづくりの方法です。今後は、合成の条件を検討することで、さまざまなタンパク質の閉じ込めを可能にし、タンパク質の構造と機能の解析の新たな方法として、応用が期待されます。さらに、生体内の環境を保ったままタンパク質を単独で捕捉することができれば、結晶化が難しいタンパク質でも、カプセルの構造や性質によって結晶化が可能になり、タンパク質の解析にとって重要な結晶構造解析に革新的な進展をもたらし、創薬・生命科学分野において新しい応用に展開されることが大いに期待されます。
本成果は、2012年10月2日(現地時間)に、英国の科学雑誌 Nature Communications オンライン版で公開されました。

Publication>>Protein encapsulation within synthetic molecular hosts 公開後にリンク
プレスリリース>>「人工カプセルでたんぱく質の生け捕りに成功」プレス公開後にリンク|東京大学


用語解説

  • ※1 NMR
  • 核磁気共鳴の現象を用いた測定手法。今回の研究では、溶液状態の錯体分子の構造情報が得られ、また、拡散定数を決めることで、分子の大きさを見積もることができた。

  • ※2 MEM
  • 最大エントロピー法。実験的に得られる限られたデータから、可能な限り精密な情報を取得する情報処理の手法。今回の研究では、中空内部の弱い電子密度を定量化し、また可視化するのに役立った。

  • ※3 単結晶構造解析
  • 結晶化した試料に対してX線を照射し、回折現象によって得られた反射点データから分子構造を解析する手法。今回の研究では、たんぱく質を閉じ込めたカプセル分子の立体的な分子構造を決定するのに役立った。


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