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KEK

公開講座「量子ビームで拓く惑星・地球科学」開催

物構研トピックス
2013年7月 2日

6月29日、機構内にてKEK公開講座が開催されました。この講座はKEKの研究で蓄積された知見を一般の方に広く紹介し、 興味関心を持っていただくことを目的に毎年実施しています。今回は「量子ビームで拓く惑星・地球科学」をテーマに、2つの講演が行われました。

講義の様子
講演する鍵 裕之 教授

講演の前に、司会の中尾 裕則KEK物構研准教授から、加速器から生み出される量子ビームを利用して物質科学、生命科学を行っている物質構造科学研究所、およびその実験施設の紹介がありました。
最初の講演は、鍵 裕之 東京大学大学院教授による、「中性子と放射光を利用して地球や惑星の中身を調べる」です。 実際に行くことのできない地球内部構造を調べるための手段の一つとして、地球内部と同じ高温高圧環境を再現し、物質の構造を調べるという手法があります。講演の前日まで、フォトンファクトリーで実験をしていたという鍵教授は、 実験に使用していた「ダイヤモンドアンビルセル」という小さな圧力発生装置を回覧、参加者は手に取って観察していました。 高い圧力を発生させるためには力のかかる面積をできるだけ小さくする必要があり、この装置は先を100ミクロン程度に尖らせたダイヤモンドを向かい合わせに押し付けて高圧を発生させています。 このような小さな試料を観察するためには、高輝度の放射光はなくてはならないものになっています。 この手法により発見された、地球惑星科学における今世紀最大の発見の一つ、マントルとコアの境とされるD''層(ディー ダブルプライム層)の構造が紹介されました。また鍵教授は地球や惑星の「水」にも注目されており、これを調べるには中性子回折が適していることから、 J-PARCの物質・生命科学実験施設に設置された最新の中性子回折装置「PLANET」を紹介されました。最近明らかになった、原始地球と現在の地球の水分量の比較から算出される 「失われた水」がマントルやコアに入りうること、氷には16種類もの分子の配向が異なる構造が存在することが紹介されました。中でも誘電性を持つ氷が注目されており、 これらが宇宙空間に存在すれば、重力による引力だけでなくクーロン力によっても惑星が形成される可能性があり、現在の想定よりも短期間で形成されることになります。

講演する中村 智樹 教授

2つ目の講演は、中村 智樹 東北大学大学院教授による、「放射光で明らかにする太陽系天体の誕生のプロセス」です。中村教授は、太陽系形成の歴史を解明するため、彗星や小惑星を調べています。 彗星は太陽系の外側で、小惑星は太陽系の内側で形成され、どちらも太陽系が始まってから1千万年までの情報を持っています。これらの天体からサンプルを採取し、組成や構造を調べることで、 その天体および太陽系の誕生プロセスを調べることができます。 講演では、NASAの探査機「スターダスト」によって採取された短周期彗星のチリの分析、およびJAXAの惑星探査機「はやぶさ」によって持ち帰られた 小惑星イトカワの試料の分析が紹介されました。これらのチリは非常に小さく貴重なため、非破壊で調べられる放射光は初期分析に有効なのです。 彗星のチリの分析では、溶けた輝石の中にカンラン石が斑状に存在していたことから温度環境、そして太陽系のどのあたりで誕生したのかも推測でき、太 陽系の中で大規模な物質移動があったことが推定されました。 また、小惑星イトカワ微粒子の分析では、地球に飛んでくる通常の隕石であるLLコンドライト隕石と同じ成分であること、 イトカワは高温(800度)を経験していることが分かりました。 これは放射性同位元素の崩壊熱によるもので、大きいほど崩壊熱による温度上昇が大きくなるため、イトカワができた時は直径20km程度だったと推測されます。
講演では、研究内容についてはもちろん、沢山ある試料に好きな映画からとったニックネームをつけていたなど、研究の裏話も紹介されました。

今回は、ミクロな構造から地球・惑星内部、太陽系天体へと広がる内容の講座でした。参加者には、中高生といった学生も多くみられ、目を輝かせて聞いていました。 質疑応答の時間には「16種類もあるという氷の性質の違いは?」「小惑星には過去の情報が保たれていて、地球では保たれていないのはなぜか?」など多くの質問が寄せられ、関心の高さがうかがえました。

プログラム>>KEK公開講座


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