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「うるおい」をもたらす酵素のかたちと仕組みを解明

物構研トピックス
2014年5月23日

東京大学大学院農学生命科学研究科の伏信進矢教授らの研究グループは、保湿効果のある糖グリセロールを生産する酵素GGPの立体構造を、フォトンファクトリーのX線結晶構造解析により解明しました。

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GGPの全体構造

化粧品などに含まれる保湿成分であるグルコシルグリセロール(以下GG)は、お酒や味噌などの発酵食品にも含まれる甘みを持つ食品成分です。また、GGは細菌の浸透圧調整に関わる生物学的にも重要な物質です。 近年の研究により、カリフォルニア州のモノ湖から同定された細菌から、GGの生成・分解をする酵素、グルコシルグリセロールホスホリラーゼ(以下GGP)が発見されました。

研究グループでは、新潟大学の中井博之助教ら、農研機構食品総合研究所の北岡本光上席研究員と共同で、GGPの高分解能な立体構造をX線結晶構造解析を用いて明らかにしました(図1)。その結果、GGPの触媒部位は保湿成分GGがぴったりと結合するようにデザインされていることが分かりました。

また、GGPが保湿成分GGを分解する際にできる、βグルコース-1-リン酸(以下βG1P)とGGPの結合をコンピュータシミュレーションによって解明しました。

これらの情報から、これまで未解明だったβG1Pを加水分解するメカニズムを解明しました。加水分解は、βG1Pのグルコースとリン酸をつなぐ炭素を水分子が攻撃することで起きます。 通常動き回っている水分子は、グルタミン酸による安定化だけでは攻撃をしかけられません。しかし、リジンとチロシンによって安定化された別の水分子が、攻撃をしかける水分子を更に安定化させ、攻撃を開始できる(図2)ということを、機能解析によって明らかにしました。

通常酵素は、一つの反応だけを触媒しますが、GGPは保湿成分GGの生成と分解という真逆の反応を触媒するだけでなく、GGの分解産物であるβG1Pの加水分解も行います。 この加水分解は、βG1Pを壊してしまうためGG合成には障害となる反応です。今回明らかとなった反応機構を応用することで、加水分解反応を抑制し、GGの大量生産への応用が期待されます。 またGGPが細菌でどのような生物学的意味を持つのかは未だ不明ですが、塩湖という高い浸透圧下の極限環境で生き残るための戦略の一環として本酵素が利用されている可能性があり、生物学的な解明も待たれています。

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今回提唱されたGGP酵素における加水分解反応の模式図

本研究は、農林水産省の農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「酵素工学を活用した糖質資源高度利用プラットフォーム構築」の支援を受けて行われました。

掲載論文
The Journal of Biological Chemistry
タイトル "Structural basis for reversible phosphorolysis and hydrolysis reactions of 2-O-α-glucosylglycerol phosphorylase"

東京大学プレスリリース>>保湿効果のある糖グリセロールを生産する酵素の構造を解明


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