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物構研(見学つき)サイエンスカフェ「キログラムの定義改定に貢献した超精密放射光実験とは?」を開催

物構研トピックス
2019年7月12日

7月6日に産業技術総合研究所 計量標準総合センター(NMIJ)の主任研究員 早稲田 篤 さんを講師にお招きし、物構研の見学つきサイエンスカフェを開催しました。 小学生から大人まで16名の参加者は、春の運転を終えたばかりのフォトンファクトリーに集まりました。

開催のお知らせページ: 物構研(見学つき)サイエンスカフェ「キログラムの定義改定に貢献した超精密放射光実験とは?」

サイエンスカフェの時間

どうして、アボガドロ定数をはかったのか?

2019年5月19日までの国際単位系(SI)の基本単位では、質量だけが人工物によって定義されていて、1 kgは国際キログラム原器の質量でした。 サイエンスカフェでは、なぜキログラムの定義を変えなければならなかったのか、について考えました。
キログラムの再定義には、2つの基礎物理定数からのアプローチ案がありました。一つは、「アボガドロ定数」によるもの、もう一つは量子力学で用いられる「プランク定数」によるもの(ワットバランス法)です。 2つのアプローチ法のどちらを用いてもキログラムの新定義に必要な物理定数を求めることができます。
日本の研究チーム、すなわちNMIJはアボガドロ定数を正確に決める方法を選んだので、アボガドロ定数の測り方について詳しく見ていきました。

どうやって、アボガドロ定数をはかったのか?

アボガドロ定数は、X線結晶密度法を使って計測します。 単結晶の密度を格子定数とモル質量で表すことによって、アボガドロ定数は、密度・格子定数・モル質量がそれぞれ正確に測定できれば計算できることが分かります。
各国の研究者たちは安価で安定なシリコン(Si)を選び、ちょうど1 kgの真球にして、正確なアボガドロ定数を算出すべく競っていました。 しかし、自然に存在するSiでは、同位体の組成にばらつきがあって正確な値が出せません。 質量数28のSi原子だけを集める同位体濃縮という方法を使えば解決できますが、それには巨額の費用が必要でした。 そこで各国は競い合うのをやめ、資金を出し合って同位体濃縮Siを製作し、大切に分け合って研究を進めました。これが、アボガドロ国際プロジェクトの始まりです。

KEKでの超精密放射光実験とは?

NMIJの藤本 弘之さんと早稲田さんは、Siの格子定数の均一性を評価するため、フォトンファクトリー(PF)の放射光を利用しました。この研究には当時PFに所属していた張 小威さんも参加し、産総研とKEKの共同研究となりました。 PFの実験ホールに、手作り感満載の自己参照型格子比較器が作られました。 これは格子定数のずれを、X線の回折角度のずれに置き換え、正確に測るためのものです。
温度については会場からも質問がありましたが、温度が変われば格子定数も変化するので正確に温度補正をしつつ、実験装置はできるだけ一定の温度を保つよう工夫されました。 実験を重ねるうちに、実験装置に手が加えられていきましたが、そのほとんどは温度安定化のためのものでした。
20年も続いたPFでの測定は2017年で一つの区切りを迎えました。国際度量衡総会において、2017年7月までに受理された論文データが新定義に反映されることが決まったからです。 各研究チームは最後まで精度を競い合いました。NMIJは、アボガドロ国際プロジェクトへはもちろん、NMIJとしても独自のデータを提出しました。 最後の数年間は決められた新定義移行期日に間に合うよう、しかも超高精度が求められた厳しいものでしたが、努力の甲斐あってNMIJは精度の高いデータを算出しキログラム定義改定に貢献しました。

日本国キログラム原器のその後は?

既に役目を終えた日本国メートル原器は2012年に重要文化財になりました。
では、日本国キログラム原器はどうなるでしょうか? これも重要文化財になる、と思いきや、標準分銅の一つとしてこれからもしばらくは現役を続けるのだそうです。

参考記事: 産業技術総合研究所 計量標準総合センター 最新情報・お知らせ(2019/5/20) 質量の特定標準器の変更について

フォトンファクトリー見学の時間

会場をPF 実験ホールに移して、見学の時間です。2班に分かれ、早稲田さんの実験装置があるビームラインBL-3Cの見学と実験ホールを見渡せる2階通路からの見学を交互に行いました。 BL-3Cでは実験ハッチ(ビームラインの末端に建てられた金属製の小部屋)が狭いため、3-4人ずつ交代で早稲田さんの解説を聞きました。 参加者はみな興味津々で、小学生をはじめ質問をする方も多く、講師と見学者で話し込む場面も見られました。

見学を終えた中学生からは、「実験ホールが広くて驚いた。一度に何人くらいで同時に実験できるんですか?」という質問がありました。 また、早稲田さんが使っているビームラインは夏の一般公開で公開していないエリアにあるので、「一般公開で実験ホールに入ったことがあるが、ここまで入るのは初めて。雰囲気も全然違う」という声も聞かれました。

ビームラインBL-3C前の通路にて
BL-3Cハッチ内のようす

参加者からは、「むずかしかったが、おもしろかった」「ワットバランス法とアボガドロ法があったことは知っていたが、データが採用されたのはワットバランス法だけだと思っていた。2つの手法がそれぞれの精度を補完し合っていたことは知らなかった」「現場見学とセットとなった試みは、理解が深まり非常によいと思う」などの感想をいただきました。


定義改定や測定原理について詳しくは

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