3月12日(火)~13日(水)、つくば国際会議場(エポカルつくば)にて2018年度量子ビームサイエンスフェスタが開催されました。年一回開かれるこのシンポジウムでは、放射光、中性子、ミュオン、低速陽電子の4つの量子ビームの総合的な利用促進を目的として、様々な分野の研究者や技術者、学生が集まり意見交換をします。主催は、物質構造科学研究所・J-PARCセンター・総合科学研究機構(CROSS)・PF-ユーザアソシエーション(PF-UA)・J-PARC MLF 利用者懇談会です。今回は2日間でおよそ580人が参加しました。
1日目の午前の部には、2名の研究者を招き基調講演が行われました。
武市 憲典氏(豊田中央研究所 マテリアルズインフォマティクス研究領域)は「マテリアルズ・インフォマティクスの現状と展望」と題して、現在のMI技術の世界の動向や施策について、またアジアや日本における状況と展望について解説し、今後の材料開発分野では、材料を発見するにとどまらず、いかに持続可能社会に組み込んでいくかが課題であるとし、産業界が果たすべき役割とMIの有用性について講演しました。
吉川 雅英 教授(東京大学大学院 医学系研究科)は「クライオ電子顕微鏡は2 Åに達するのになぜ30年もかかったか」と題し、電子顕微鏡法において無機材料に比べ生体分子の構造解析を難しくしてきた「水」の問題を解決した技術について解説しました。また、日本に導入されているクライオ電顕を紹介するとともに、今後のクライオ電子顕微鏡法の発展の可能性と解決すべき問題について話題提供しました。
1日目の午後に開催されたポスターセッションにはおよそ300件のポスターが掲示され、様々な分野の研究者や技術者が交流しました。学生奨励賞には70件の応募があり、審査の結果、特に優秀であると認められた6名には奨励賞が授与されました。
ポスターセッション終了後には3会場に分かれて、パラレルセッションが開催されました。 それぞれのセッションは、「量子ビーム×情報科学」「産業利用」「強相関物質科学」「ソフトマター研究」と銘打たれ、用いる量子ビーム・手法は異なっても研究対象が同じ研究者が集まり討論する場となりました。 今年は特に、量子ビームあるいは電顕で得られた大量のデータをいかに効率よく処理するかという話題が多く見られました。
2日目は、2つの会場に分かれ、第36回PFシンポジウムと第10回MLFシンポジウムが開催されました。
MLFシンポジウムでは、ミュオン科学および中性子科学に関するサイエンスセッションと、施設報告、およびJ-PARC MLF 利用者懇談会が開催されました。
まず、犬飼 潤治 教授(山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センター)が「量子ビームを用いた固体高分子形燃料電池の解析 −ナノ材料から実セルまで−」と題した基調講演を行いました。
続いて、鳥養 映子 教授(山梨大学 工学部)の超低速ミュオン顕微鏡についての講演冒頭で、前日に日本学士院賞受賞が決定した物構研 永嶺 謙忠 名誉教授を祝うスライドが映し出されると、会場は拍手で湧きました。施設報告では、MLFの高出力運転や第2標的ステーションの検討について報告がありました。
PFシンポジウムでは、来年度からの組織改編についてと、将来計画について議論がなされました。また、PF-UA総会では、会則の変更についての説明と決議が行われました。閉会のあいさつをした物構研 小杉所長は、「KEKの中での物構研の立場を認識し、研究成果を目に見えるものにしながら、存在感を出していきたい。共通の問題点を解決しながら、環境を整えていくので、今後も皆さんの提案や協力をお願いしたい」と締めくくりました。
2019年度の量子ビームサイエンスフェスタは、2020年3月12~14日、水戸市において開催が予定されています。
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