文化財など人文科学資料研究への活用が期待される「負ミュオンを用いた新たな非破壊研究手法」の実用化を、J-PARC MUSEをはじめとする日本の研究グループが精力的に推進しています。近年では、大阪大学 核物理研究センターでも、連続負ミュオンビームによる非破壊分析が実施されています。
そこで、第2回 文理融合シンポジウム「量子ビームで歴史を探る」― 加速器が紡ぐ文理融合の地平 ― は、関西方面の研究者にも広く参加いただくべく、2019年12月25日(水)~12月26日(木)、大阪大学 中之島センターで開催しました。主催は、高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造科学研究所(物構研)、大阪大学 核物理研究センター(RCNP)、共催は 人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館と国立科学博物館、協催は 日本中間子科学会、J-PARCセンター、新学術領域「宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋。」、異分野融合「新学術・産業応用を目指した次世代ミューオン分析拠点の形成」です。
シンポジウムには、量子ビームを供給するミュオン施設、中性子施設、放射光施設の研究者に加え、非破壊分析に興味を持つ大学や博物館などから70余名の考古学・文化財研究者が集まりました。今回のシンポジウムでは、学生や若手研究者の発表を中心としたポスターセッションを設け、講演やポスター発表、懇親会、休憩時間を通して、文系・理系の垣根を越えた活発な議論を行う貴重な機会を持つことができました。
1日目は、ミュオン非破壊分析の現状を把握するため、3つのミュオン施設の各代表者から分析の現状と展望についての講演がありました。3つのミュオン施設とは、J-PARC MUSE、英国ラザフォードアップルトン研究所にある理研RALパルスミュオン施設、大阪大学RCNP-MuSIC施設です。続いて、文化財研究者側から文化財・歴史資料に対する非破壊分析の重要性、ミュオン分析の意義や説明、中性子及び光量子を用いた放射化分析法の先端技術の紹介が行われました。初日のセッション終了後には、中之島センター 交流サロンにおいて懇親会が行われ、和やかな雰囲気の中で異分野研究者間の意見交換が行われました。
2日目は、ミュオンを用いた分析法に関して、より具体的な測定方法の紹介と最新検出器技術、新たな分析方法の提案がありました。また、複数の考古学者・文化財研究者から、ミュオンや他の量子ビームを用いた分析の実例や将来の非破壊分析への要望が出されました。2日目午前中のポスター発表ではミュオンを用いた最先端研究、測定・検出器技術の紹介や、青銅器の新しい年代測定法の検討などの発表に加え、阪大考古学研究室の若手からは考古学研究の発展に向けたミュオン分析導入の展望についてのシリーズ発表があり、分析側の研究者と有益な意見交換が行われていたのが印象的でした。
第3回 文理融合シンポジウムは、2020年9月に東京 上野の国立科学博物館で開催の予定です。
12月25日(水)13:00~ | ||
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開始 - 終了時刻 | タイトル | 講演者 |
13:00-13:30 | 参加登録 | |
13:30-13:40 | 開会の辞 | 三宅康博 |
13:40-14:10 | 量子ビームによる文理融合研究 ーJ-PARCにおけるミュオン非破壊分析ー |
三宅康博(KEK物質構造科学研究所) |
14:10-14:40 | 英国理研-RAL施設とミュオン利用分析 | 石田勝彦(理化学研究所) |
14:40-15:10 | 大阪大学RCNP-MuSIC施設とミューオン分析 | 佐藤朗(大阪大学) |
15:10-15:25 | 休 憩 | |
15:25-15:55 | 金属製文化財の保存処理と非破壊分析 | 植田直見(元興寺文化財研究所) |
15:55-16:25 | 負ミュオンによる歴史資料の完全非破壊分析 | 齋藤努(国立歴史民俗博物館) |
16:25-16:55 | 青銅内部の非破壊元素分析と非破壊同位体分析の試み | 二宮和彦(大阪大学) |
16:55-17:25 | 放射化分析法を用いたはやぶさ2の回収試料の分析 | 白井直樹(首都大学東京) |
17:25-18:00 | 集合写真 + 休憩 | |
18:00-20:00 | 懇 親 会:大阪大学中之島センター 9階 交流サロン | |
12月26日(木)9:00~ | ||
開始 - 終了時刻 | タイトル | 講演者 |
8:55- 9:00 | アナウンス | |
9:00- 9:25 | J-PARC MUSEにおけるミュオン分析 | 反保元伸(KEK物質構造科学研究所) |
9:25- 9:50 | ミュオン分析に古墳時代研究が期待するもの | 清家章(岡山大学) |
9:50-10:15 | 銅鏡のミューオン非破壊成分分析と鉛同位体比分析についての展望 | 南健太郎(岡山大学) |
10:15-10:40 | 考古学的フィールド調査のサイクルと科学分析 ー京都府篠窯跡群での調査を例にー |
上田直弥(大阪大学) |
10:40-11:05 | 鉄製品中の微量炭素の非破壊定量分析 | 久保謙哉(国際基督教大学) |
11:05-11:20 | 休 憩 | |
11:20-12:35 | ポスターセッション | |
12:35-14:05 | 昼食 | |
14:05-14:30 | 非破壊での鉄鋼文化財研究の新展開:放射光・中性子・ミューオンの相補利用の可能性 | 田中眞奈子(昭和女子大学) |
14:30-14:55 | 負ミュオンを用いた金貨の表面処理に関する非破壊分析 | 沓名貴彦(国立科学博物館) |
14:55-15:20 | 緒方洪庵の薬箱研究:非破壊的医療文化財分析法の開発と実践 | 髙橋京子(大阪大学) |
15:20-15:35 | 集合写真 + 休憩 | |
15:35-16:00 | ミュオンを利用した考古学研究の動向と展望 | 松本直子(岡山大学) |
16:00-16:25 | 磁気センサーミュオンを用いた新たな非破壊検査法の検討 | 竹下聡史(KEK物質構造科学研究所) |
16:25-16:50 | TES超伝導X線検出器が切り拓くミュオンビーム元素分析の展望 | 東俊行(理化学研究所) |
16:50-17:00 | 閉会の辞 |
2019/12/26(木)ポスターセッション 講義室702 | ||
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ポスターID | タイトル | 講演者 |
P01 | 「宇宙線負ミュオンによる大型NaI(Tl)検出器を用いた非破壊研究手法の確立」ー陸奥鉄の解析ー | 荒久田周作(大阪大学) |
P02 | 「宇宙線負ミュオンによる中性子検出器を用いた非破壊研究手法の確立」ー重水素ボンベでの触媒核融合の検出ー | 若林寛之(大阪大学) |
P03 | 負ミューオンビームを用いた隕石の非破壊元素分析 | 室田雄太(大阪大学) |
P04 | MuSICを用いたミューオン核変換の研究 | 西川凌(大阪大学) |
P05 | 大阪大学RCNP-MuSICのDCミューオンビームとミューオン分析法 | 友野大(大阪大学) |
P06 | 二次元検出器を用いたミュオンによる文化財の3次元元素イメージング法の開発 | 邱奕寰(大阪大学) |
P07 | ミューオンによる非破壊元素マッピングに向けた高空間分解能ガス検出器の開発 | 堀孝之(大阪大学) |
P08 | 文化財の産地分析に向けたミュオン特性X線による非破壊同位体分析法の開発 | 工藤拓人(大阪大学) |
P09 | ミュオン特性X線測定による文化財の酸化状態特定の可能性検討 | 梶野芽都(大阪大学) |
P10 | 宇宙線ミューオンを用いたオンサイト非破壊元素分析システムの開発 | 佐藤朗(大阪大学) |
P11 | 考古資料における理科学分析導入と実践の展望(1) | 木村理・飯塚信幸・谷本峻也・ 西浦熙・野島悠之・樋口太地・ 渡邊都季哉(大阪大学) |
P12 | 考古資料における理科学分析導入と実践の展望(2) | |
P13 | 考古資料における理科学分析導入と実践の展望(3) | |
P14 | 考古資料における理科学分析導入と実践の展望(4) | |
P15 | 青銅器の放射性炭素年代測定法の可能性と問題点ー加熱分解温度の上昇に伴う年代値の変化ー | 小田寛貴(名古屋大学) |
P16 | J-PARC MLFでの低速負ミュオンビーム取り出しについて | 名取寬顕(KEK) |
第2回 文理融合シンポジウム 量子ビームで歴史を探る ー加速器が紡ぐ文理融合の地平ー のお知らせページ
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