物構研では、放射光・中性子・ミュオンなどの量子ビームを利用する文化財研究の第一人者が一堂に会して、考古学研究・関連研究・分析技術を紹介し文理融合研究の可能性を探るシンポジウムを開催しています。2019年度は、第1回が国立科学博物館、第2回が大阪大学 中之島センターにおいて開催されました。2020年度は、9月25~26日に第3回文理融合シンポジウムがオンライン開催されました。
第4回シンポジウムは会場での開催を計画していましたが、COVID-19感染拡大の状況を踏まえ、1月28日~29日に「Muon科学研究会」と連続する日程での合同開催となりました。
今回は、量子ビームを供給するミュオン施設・中性子施設・放射光施設の研究者に加え、非破壊分析に興味を持つ大学や博物館などから考古学・文化財研究者が多数参加し、口頭発表は13件、参加登録者はおよそ100名となりました。講演を通し文系・理系の垣根を越えた活発な議論を行う貴重な機会を持つことができました。
第4回 文理融合シンポジウム 量子ビームで歴史を探る ―加速器が紡ぐ文理融合の地平― のお知らせページ
1日目は、ミュオン非破壊分析の現状、特に施設についてご理解いただくために、J-PARC MLF・理化学研究所 RALパルスミュオン施設・大阪大学 MUSICの3つのミュオン施設の各代表者が講演しました。
続いて、KEK物構研の若手研究者3名からミュオン非破壊分析法の基礎、原理についての解説に加えて、MUSEにおいて新しく導入しようとしているマルチ素子(100素子)ゲルマニウム検出器、マルチ素子データ取得システム、走査型ミュオン顕微鏡に関しての講演がありました。講演後の質疑応答では、装置の拡大写真を見ながら問題解決のためのアイデアを出し合う場面もありました。
2日目は、各大学・研究機関から7件の講演がありました。その中から招待講演についてご紹介します。
MLFで実験を行っている国際基督教大学の久保 謙哉 教授は、負ミュオン寿命測定法を用いた新たな非破壊分析法により、例えば日本刀の鉄中の炭素濃度をppmオーダーで測定できることを示し、そのための準備や実験結果を紹介しました。
また、岡山大学 埋蔵文化財調査研究センターの南 健太郎 助教は、青銅鏡などの非破壊分析の話題に加えて、日本列島最古の文字とミュオン分析の展望に関する講演を行いました。
国立歴史民俗博物館の坂本 稔 教授から、「アップデートする炭素14年代法」と題して炭素の同位体14Cが半減期5730年で放射壊変することを利用した14C年代測定法に関するご講演がありました。遺跡発掘調査報告書放射性炭素年代測定データベースは、最新の研究データが組み込まれアップデートされているという内容でした。
続いて、東京電機大学の阿部 善也 助教から、SPring-8で行われている放射光による文化財の非破壊分析事例が紹介されました。蛍光X線分析法によるエジプトやメソポタミアの古代ガラスの起源推定と、X線吸収端差分法による元素イメージングにより絵画の下地に隠された描写を明らかにするという研究です。
さらに、歴史民俗博物館の齋藤 努 教授より、江戸時代に流通した丁銀の時代推移とともに進化した「色づけ」文化の変遷をミュオンで調べた研究についての講演がありました。
最後にシンポジウムの締めくくりとして、KEKミュオン科学研究系 下村 浩一郎 教授が結びの挨拶を行いました。
次回の文理融合シンポジウムは、2021年夏の開催を予定しています。
関連ページ:
関連記事: