3月7日(月)~9日(水)、2021年度量子ビームサイエンスフェスタがオンライン形式で開催されました。このフェスタは、放射光、中性子、ミュオン、低速陽電子の4つの量子ビームに関わる人々が一同に会し、情報交換と交流を深めるとともに、量子ビーム利用研究の将来について語り合う場となっており、年一回、この機会に会えるのを楽しみにしている方もいます。今回もオンラインでの開催となりましたが、全体の参加登録数は、645名にのぼりました。
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2021年度量子ビームサイエンスフェスタ 第13回MLFシンポジウム 第39回PFシンポジウム
第1日目は、MLFシンポジウムが開催されました。MLF施設全体の運転・利用状況と成果創出に向けた取り組みの他、中性子源の施設報告では、ターゲットの交換についての報告がありました。中性子ビームラインの現状については、自動化・遠隔化などへの取組みが紹介されました。また、ミュオン科学実験施設報告では、新たにS2エリア・H1エリアへのビーム供給の開始を含めた概要が報告されました。施設トピックやMLF研究力向上のセッションでも取り上げられたように、遠隔化・自動化と、学生受入といったキーワードを中心に、活発な意見交換がなされました。
また、MLF利用者懇談会では、総会に続き、ユーザーからの要望・アンケート報告なども行われました。
2日目午前中に行われた1つめの基調講演では、「放射光でリュウグウを調べる:環境化学者からみた面白さ」と題し、東京大学大学院理学系研究科 高橋 嘉夫 教授が講演しました。高橋先生は、幼少の頃つくば市に住んでいたという自己紹介に始まり、どのような経緯で地球惑星科学、環境化学を志したのか、また、地球と宇宙の両方の物質にまたがる分子地球化学の魅力や、現在進行中のリュウグウ試料の分析についての話題を、SDGsにからめた環境化学者の観点から語りました。
2つめの基調講演は、「ホイスラー型形状記憶合金の特異なマルテンサイト変態」と題し、東北大学大学院工学研究科 貝沼 亮介 教授が講演しました。貝沼先生は、医療用デバイスや構造材料などに広く使われている形状記憶合金について、その物性発現の起源について構造物性の観点から説明しました。さらに、これらの研究成果をもとにして材料の特性を制御し、新たな実用材料の開発を進めていることについて、実例を多数交えて話しました。
主催者代表挨拶で、KEKの山内 正則 機構長は、大学共同利用研究教育アライアンスの設立にふれ、「各研究機関や国内外研究コミュニティの関係を大切にしながら共通部分の統一化、連携強化、国際化、大学共同利用の充実に結び付けることができるよう、他機構と協力しながら進めていきたいと考えている。また、物質・材料科学は、基礎科学と応用科学をバランスよく進めていくことができる数少ない分野であることを強調し、KEKとしても、このような特徴を今後も活かせるようサポートを続けたい。」と挨拶がありました。
また、JAEA 大井川 宏之 理事はビデオメッセージで、「量子ビーム利用を通じて他分野と協働し、イノベーション創出にむけて積極的に取り組んでいきたいと考えている。このサイエンスフェスタが、組織横断的な議論や交流を通じて、さまざまなイノベーションを目指すきっかけとなることを期待している。」と述べました。
来賓挨拶では、文部科学省 素粒子・原子核研究推進室 石川 貴史 室長より挨拶がありました。また、東海村 山田 修 村長からのビデオメッセージが、フェスタ特設サイトに掲載されました。
3日間をとおして開催されたポスターセッションには242件のポスターが出展されました。ポスターにはそれぞれブレイクアウトルーム(オンライン会議中のグループ分け機能)が割り当てられ、コアタイムには発表者が待機して発表者と閲覧者が相互に説明や質問を行いました。
ポスターセッション終了後には4つのパラレルセッションが開催されました。それぞれのセッションは、「オペランド」「材料」「生命」「基礎物理・物性」のテーマ別に分かれ、口頭発表と質疑応答が行われました。
1日目のポスターセッションでは、学生奨励賞の審査が行われました。今回は49名の学生の応募の中から、特に優秀と認められた学生4名に奨励賞が授与されました。後日、賞状とトロフィーが贈られます。
・城島 一暁さん(東京工業大学)
「六方ペロブスカイト関連構造を持つ高い酸化物イオン伝導体における伝導経路の解明」
・鹿島 騰真さん(東京大学)
「ビフィズス菌由来のB型血液型抗原に特異的なGH110 α1,3-galactosidase AgaBbの構造解析」
・碓井 拓哉さん(北海道大学)
「AlphaFold2の予測モデルによるタンパク質-tRNA複合体の構造決定」
・魚住 亮介さん(東京大学)
「ポジトロニウムのレーザー冷却を見据えたドップラー分光法の開拓」
最終日にはPFシンポジウムが開催されました。午前中はPFの施設報告から始まり、通常の報告の他に、開発研究多機能ビームラインの建設計画とそれに伴うビームラインの移設等について議論が行われました。また、新たな試みとして、今年度から運用が始まったPF-S課題3件に関して、ポスター発表の他に5分間のショートプレゼンテーションの時間が設けられました。午前の最後には企業セミナーの時間が設けられました。
午後は、PF-UA総会、PF同窓会の後、PF将来計画についてのセッションがありました。長期計画として、高性能のストレージ(SR)ビームと超高性能のシングルパス(SP)ビームの同時利用と選択利用が可能なハイブリッドリングについて説明があり、議論が交わされました。
PFシンポジウムに続いて、低速陽電子実験施設SPFからの2021年度の施設整備の報告があり、真空インターロックや試料準備チャンバの整備について説明がありました。