11月13日(土)にJ-PARC施設公開が昨年に引き続いてオンラインで開催され、YouTubeのJ-PARCチャンネルとニコニコ生放送でライブ配信されました。1日で陽子ビームがとおる順番に沿って加速器リニアックからニュートリノまで紹介され、YouTubeライブの視聴回数915回、ピーク値で143人、チャットメッセージ101件、ニコニコ生放送の来場者数は11,310人、コメント数1,854件と今年も多くの方にご参加いただきました。
配信された内容はこちらから再生できます。
物構研の中性子ビームライン、ミュオンビームラインがある物質・生命科学実験施設(MLF)は、JAEAの川北 至信 中性子利用セクションリーダーによるMLF全体の説明から始まりました。川北さんの説明に合わせMLF第1実験ホールの左右、上下にカメラが振られると「広い」というコメントが寄せられました。
次に物構研の三島 賢二 特別准教授がメインスタジオから「中性子の寿命から元素の起源を紐解く」と題した講演を行いました。中性子の寿命は初期宇宙の中性子/陽子比を決める重要な値ですが、測定方法によって異る結果が出ています。その裏に中性子がダークマターに崩壊する説やダークマターと衝突する説があり、新しい物理探索の場となっています。中性子ビームライン BL05 NOP では、これまでとは異なる方法で中性子の寿命を測定しています。三島さんは最後に「今は精度が足りませんが、今後精度を上げていくことで中性子の寿命がはっきりします。今後の実験結果に乞うご期待」と呼びかけました。
続いて物構研の梅垣 いづみ 助教がMLF第2実験ホールからミュオン科学実験施設(MUSE)とミュオンを用いて行われている3種類の実験(基礎物理実験、ミュオンスピン回転緩和法、元素分析)について説明しました。
それに引き続き、梅垣さんにより「J-PARC大強度ミュオンでのぞく物質のなか -電池に隕石、江戸時代のお宝まで-」と題した講演がなされ、試料を傷つけず、どんな元素でも元素分析できるというミュオン元素分析の特徴を生かした以下4つの研究例が紹介されました。
1つ目はリチウムイオン電池について。リチウムイオン電池を不適切に使用すると金属リチウムが析出します。リチウムは軽元素なので、析出した金属リチウムを非破壊で調べるのは難しいのですが、ミュオンでは可能です。「リユースの前に非破壊で金属リチウムを検出できると、安全に、効率的にリユースすることができるようになるかもしれません」とミュオンの貢献を説明しました。
2つ目は緒方洪庵の薬箱。その中のガラス瓶の1つは固着していて開けられませんでした。また中身は貴重な試料であり、大気に晒すと薬剤が劣化してしまう可能性がありました。そこでミュオンで元素分析することにより、薬瓶に入っていた成分を突き止めることに成功しました。
3つ目は、はやぶさ2が持ち帰った小惑星リュウグウの試料です。隕石は地球に落下する際、大気によって酸化したり、気化したりしますが、リュウグウの試料はそのままの成分を維持しています。こちらは現在実験データを解析中で、太陽系創成時の元素組成が明らかになる日は近いです。
4つ目は江戸時代の小判について。慶長小判は元禄小判より金の含有量が低いのですが、見た目は変わりません。それは色付という作業をしたからですが、色つけによって何がかわったのかをミュオンが解き明かしました。詳しくはYouTubeまたはニコニコ生放送をご覧ください。
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オンラインで開催した2度目のJ-PARC施設公開、お楽しみいただけましたでしょうか?
今回は、J-PARC特設サイトに施設公開開催時間中にYouTubeにお寄せいただいた質問と、ライブ配信後にお寄せいただいた質問に応えるQ&Aコーナーが設けられています。
J-PARC オンライン施設公開2021 Q and A
http://j-parc.jp/c/OPEN_HOUSE/2021/QA.html
ご覧くださったみなさま、コメントをお寄せくださったみなさま、ありがとうございました。
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