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2022年度量子ビームサイエンスフェスタを開催しました

物構研トピックス
2023年4月13日

2023年3月13、14、15日の3日間、つくば国際会議場(エポカルつくば)において2022年度量子ビームサイエンスフェスタが開催されました。これは、放射光、中性子、ミュオン、低速陽電子の4つの量子ビームの総合的な利用促進を目的に年1回開催されているもので、今回は4年ぶりの対面での開催を含むハイブリッド形式で行われました。第14回MLFシンポジウム、第40回PFシンポジウムも合同開催され、3日間で現地会場に414名、オンライン会場に475名が参集しました。

MLFシンポジウム

1日目に開催された MLFシンポジウムの施設報告では、2022年度のMLFは800kWを超える出力で安定した利用運転を実現し、この4月からは1MWの定常運転を開始する予定であることが報告されました。他に中性子ターゲット容器寿命予測、シンチレータ中性子検出器の大面積化、基礎物理実験が行われるHラインの進展について報告がありました。

MLF利用懇談会総会では、JLANを利用したドミトリーからのリモート解析東海UOからMLFへの移動に関する質問があり、 MLFディビジョン長の大友季哉氏(KEK) が回答しました。東海ドミトリーとJ-PARC間の移動については、J-PARCセンターがカーシェアサービスを導入予定であることが紹介されました。

午後にはMLFの将来計画に関する話し合いが行われました。MLFの将来計画は、KEK物構研、日本中性子科学会、日本中間子科学会などのコミュニティの構想との調整も重要です。そこでMLFにおける将来計画の検討状況に加え、それぞれの団体が提出した日本学術会議「学術の中長期研究戦略」についての講演も行われました。

MLF内の職員による2030年を見据えた将来計画に関するプロジェクト「MLF2030-neutron」についての紹介があり、作成されたロードマップの報告がありました。またMLFの第2ターゲットステーション(TS2)は中性子源とミュオン源を1つにした回転標的を主案としており、中性子輝度20倍、ミュオン強度50倍のビームを目指しています。シンポジウムの最後に、 J-PARC副センター長の脇本秀一氏(JAEA)は「MLF2030、TS2は今後もユーザーと一緒に議論していきたい」とあいさつしました。

PFシンポジウム

2日目にはPFシンポジウムが開催されました。午前中には、施設からの報告が行われました。全体の報告の後、新しく建設されたビームラインおよび今後建設を進めるビームラインについて個別に報告が行われました。PF-ARにKEK素粒子原子核研究所(KEK素核研)によって新しく建設された測定器開発テストビームラインに関しては、素核研の中村勇氏からの報告があり、このビームラインの意義や今後の運用などについて貴重な意見交換がなされました。午前の最後には、新たな試みとして、PF-S課題の口頭発表が行われました。PF-S課題は、施設として推進すべき技術開発や分野開拓などの課題で、ユーザーにもこの取り組みを知っていただく良い機会となりました。

午後のPF-UA総会では、今年度から新設された「PF-UA学生論文賞」の授賞式が行われ、受賞した阿部満里奈さん(横浜市立大学)、加藤剛臣さん(東北大学)による講演が行われました。引き続き、PF-UA特別企画として、今年で10年目を迎えるT型(大学院生奨励)課題のセッションが行われました。当時の設立の経緯のほか、初年度のT型課題の実験責任者である北村未歩氏(発表時所属:放射光科学第一研究系助教)による経験談が話されました。その後、PF同窓会のセッションでは、PF第3代の施設長であった故・千川純一先生、長年PF放射光源系の研究主幹を務められた故・小林正典先生の追悼講演が行われました。

北村未歩氏による講演「T型課題を経験して」

午後の後半は、PFの短期および中長期の将来計画に関するセッションが行われました。現在次期光源として検討を進めているハイブリッドリングに関しては、エネルギーと周長に関する具体的な検討を進めていることが紹介され、ユーザーからも多くの質問と意見交換がなされました。

PFセッションの後には、低速陽電子実験施設(SPF)に関する報告が行われました。

量子ビームサイエンスフェスタ

3日目は量子ビームサイエンスフェスタが開催されました。

基調講演では、福島 孝典 教授(東京工業大学)が「高次構造を発現するソフトマテリアルのサイエンス」と題して、分子自己集合化を利用したソフトマテリアル設計について、トリプチセン、トリフェニレンといった分子を要素とする2つの系をもとに、自己集合や相分離といった過程を通じて分子が高次の長距離構造秩序を形成することを見い出し、液晶分子の特性や応用に関する研究への展開と、放射光を利用した構造解析の展望について講演しました。

中村 智樹 教授(東北大学)は、「はやぶさ2サンプル分析から判明したC型小惑星リュウグウの形成・進化・衝突破壊のプロセス」と題して、はやぶさ2搭載の科学観測機器の運用や、回収したサンプルの石の物質分析チームリーダーを務めるなど、自らが関わった2つのミッションについて紹介しました。リュウグウを調査することで、太陽系の天体形成とその進化、さらに地球の海や生命の起源に関するヒントを得られるとし、ミュオンビームと放射光を使った測定による研究成果について講演しました。

基調講演での福島 孝典 教授(東京工業大学)

基調講演での中村 智樹 教授(東北大学)

午後の前半はポスター発表が行われユーザーおよび施設による234件のポスター発表が行われました。後半は3会場パラレルで口頭発表が行われ、電池、生物、薄膜・表面界面、材料、食品科学、磁性・強相関に関する17件の講演がありました。

学生奨励賞

最後に、ポスターセッション内の審査で優秀と認められた学生に贈られる、学生奨励賞の発表と授賞式が行われました。

2015年度から始まった量子ビームサイエンスフェスタは、施設スタッフとユーザーとの情報交換の場であるだけでなく、異なるプローブを用いる研究者間の交流を通して将来の量子ビーム利用研究のあり方を考える場となることを目指し開催されてきました。今回4年ぶりの対面での交流が新たな研究の発展につながることを期待されながら、閉会しました。


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