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中性子科学研究系の研究者が「電池」と「水素」について講演 ~KEK公開講座~

物構研トピックス
2018年7月13日

6月30日(土)KEKつくばキャンパス 小林ホールにて、KEK公開講座「J-PARCの中性子で観るエネルギー関連材料」が開催されました。 梅雨明け直後の暑い日でしたが、150名近くの方が集まりました。

KEK公開講座「J-PARCの中性子で観るエネルギー関連材料」のおしらせ

講義1「中性子線を使ってリチウムイオン二次電池を見える化する」
講師 米村 雅雄(よねむら まさお)特別准教授(KEK物質構造科学研究所) 

(米村 准教授は、J-PARC MLF BL09 SPICAの中性子線を用いて、電池の中の反応の解明や、従来の電池の欠点を補う次世代の電池の開発支援に取り組んでいます)

なぜ見える化が必要か

携帯電話やノートパソコン、最近では車まで、電池で動くものは身近にたくさんありますが、それらにはリチウムイオン二次電池と呼ばれる、充電可能な電池が多く使われています。 リチウムイオン電池は、リチウムイオン(Li+)が、電池の正極と負極を行ったり来たりすることで充放電します。 リチウムイオン二次電池が発売されたのは1980年代ですが、これまで、電池が動作しているときの様子は直接観察されてきませんでした。 どうやったら1回で使える電気を増やせるのか? 何年も使える電池にするにはどうしたらいいのか? 電池の事故を防ぐにはどうしたらいいのか? 電池の性能と安全性を高めるため、電池反応の見える化の必要性が高まっています。

オペランド測定

中性子線を使うと軽い元素であるLiも見えるので、電池内部の構造を見るのに適しています。 これまでは、電池を分解して直接調べていましたが、最近では電池を壊さずに電池を動作させたまま計測(オペランド測定)することができるようになりました。 新品の状態から劣化するまでの電池の反応をリアルタイムで継続的に観測すると、電池の使い方で反応が全く違うことが分かりました。 また、反応のムラがあることも分かり、電極上で反応が不均一に進むことが、電池の寿命を左右する一因ではないかということも見えてきました。 さらに中性子線では、放電終了後にも電極内で反応が進む「緩和反応」を初めて観測することができています。

J-PARC MLF BL09 SPICAについて質問
全固体電池

リチウムイオン電池の全固体電池とは、その名前の通り、電池の構成要素がすべて固体の電池です。 液体の部分(電解液)を固体の電解質にすると、電池のパッキング方法の自由度が増え、同じ体積により多くのエネルギーを詰め込むことができるというメリットがあります。
中性子実験によって、Li+が固体電解質中を動いていた通路を可視化することに成功し、 固体中をどのようにLi+が流れていくかが分かりました。 結晶構造とその中でのLi+の動きがわかれば、速さの理由を議論できます。 この手法を用いて、全固体電池の開発の鍵を握る物質(固体電解質すなわち超イオン導電体)の発見に、中性子による測定が大きく貢献しました。 このような超イオン導電体を固体電解質として使った全固体電池は超高速で充放電でき、近い将来、自動車にも採用されることが計画されています。

質疑応答の時間には、中性子とX線の原子核の見え方の違いや、電池について質問が多数寄せられました。 例えば携帯電話のリチウムイオン電池を長持ちさせるための充放電のコツや、電池は夏の日中の車内など高温の場所に放置しないことなどをアドバイスしていました。

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講義2「中性子で物質中水素の居場所を探る」
講師 池田 一貴(いけだ かずたか)特別准教授(KEK物質構造科学研究所)

(池田 准教授は、J-PARC MLF BL21 中性子全散乱装置 NOVAを使い、水素が材料に侵入する仕組みを明らかにする研究を進めています)

水素とは

水素は「水の素」と書くように、地球にはほとんどが水として存在します。 宇宙で最初にできた最も単純な原子ですが、単純な構造をしている故に、電子を離したりもらったりすることで、その大きさも大きく変化します。 一方、太陽では水素が4つ集まってヘリウムができ、その核融合でできた光のエネルギーが地球に降り注いでいるように、エネルギーの源としての一面もあります。
現在、日本では、そのエネルギー事情から、水素をエネルギー源にと考えるようになりました。 水素ガスと酸素ガスをエネルギー源にした、燃料電池による発電です。 電気を水素で貯めるという発想ですが、課題もたくさんあります。

水素を貯めるには?

数年前に発売された燃料電池自動車を裏返してみると、大きな水素タンクが見えます。 常圧ではクルマに載せきれないので700気圧という高圧にしています。 しかし、もっと長く走りたい、もっと車内を広くしたいときにはどうしたらいいか、新たな貯蔵方法を考える必要が出てきました。
実は、水素はタンクよりも金属中の方が居心地がいいらしく、水素を貯蔵できる金属が着目されています。 高密度に水素を貯められる素材は多数提案されているものの、簡単に水素が出入りしなかったり、水素の密度が低すぎるという難点がありました。 数気圧で水素貯蔵合金に水を押し付けると水素が原子になって入っていき、金属は水素原子で押し広げられて体積が数割増すことが分かっています。 しかし、より詳しく、水素が材料の中のどこにいるのかを知るため、水素を直接見る必要が出てきました。

県外からの高校生が質問
水素を見る
物構研では、マルチプローブといって、一つの対象を複数の量子ビームを使って調べることができます。 X線では電子を見るので電子が少ない水素はほとんど見えないのに対し、中性子では、原子核に散乱した原子核を見るので、水素の位置を知ることができます。(例:クロコン酸)
J-PARC MLF BL21 中性子全散乱装置 NOVAでは、水素の侵入を直接観察し、秒単位で進行する、原子が並んでいる間隔が開いていく反応を確認することができました。
MLFでの水素貯蔵材料の研究では、どこまでコンパクトに水素を貯蔵できるかをテーマにしています。 金属内の隙間を減らし、よりコンパクトに多くの水素を蓄えられる材料の開発に取り組んでいます。 これからのJ-PARCの研究に着目してください。

質疑応答の時間には、中性子と水素について質問が相次ぎました。 高校の先生に勧められて県外から来たという高校2年生が、講演終了後にも熱心に質問をしているのが印象的でした。

関連サイト物構研「一家に1枚 水素深読みサイト」

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