東北大学 大学院理学研究科 地学専攻の中村 智樹 教授は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のはやぶさ2プロジェクト 初期分析チームのひとつ「石の物質分析チーム」のリーダーです。
中村教授はもともと天文や惑星が好きな少年でした。大学では学部生の頃から惑星科学の研究を始め、フォトンファクトリー(PF)で初めて実験したのは1991年のこと。以来30年間、PFに多数の地球外物質試料を持ち込んで分析を続け、真空封止アンジュレーター*やIP(イメージングプレート)*導入などPFの分析能力向上も見守ってきました。
*真空封止アンジュレーター:放射光の光源リング上、電子の通り道に特殊な磁石を挿入することで電子を細かく蛇行させ、より強力な放射光を出させる仕組み。電子の通り道は真空で、磁石ごと真空中に入れたのでこの名前がついた。
*IP(イメージングプレート):特殊な蛍光体をプラスチックフィルム上に塗布したもので、デジタルデータが得られ、X線フィルムよりも高感度。データを消去して再利用が可能。
惑星探査の宇宙ミッションとの出会いは、大学院生のときに参加したシンポジウムでした。アメリカ航空宇宙局NASAが実施した彗星塵のサンプルリターンミッション「スターダスト」に参加し、2006年ジョンソン宇宙センターで彗星の塵を取り上げました。その後、日本に持ち帰りPFでも分析しています。九州大学の助手のときに、JAXAのはやぶさ試料分析の公募があり、PFでの分析を想定して応募し2度の試験に合格しました。5つの分析チームのリーダーのひとりでしたが、探査機帰還直後にカプセルからイトカワ試料を分離・特定する仕事も担当しました。意外なことに、はやぶさ2も公募だったそうです。
はやぶさ2の次には、JAXAの惑星探査プロジェクト 火星衛星探査計画MMX(Martian Moons exploration)があります。探査機の目的地は火星の月フォボス。これも黒い衛星で、この黒い月がどのようにしてできたのかよく分かっていません。火星の月の起源は地球の月の起源にもつながるのでそれを調査しに行くのだそうです。探査機は、はやぶさ2よりずっと長い約2時間、四つ足で着地して試料を採取する予定です。
ひとつの惑星探査ミッションは10年に1件のペースで始まり20年間続きます。そんなプロジェクトに生涯で4度も関わることについて、中村教授は「自分の力ではどうしようもない、幸運」と言います。落ち着いたその言葉には重みがありました。
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