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KEK 過去から未来へ

物構研ハイライト
2011年11月17日

KEK国際交流会館内のコミュニケーションプラザでは、加速器を使った宇宙・物質・生命の謎を解く最先端の研究とその仕組みを紹介しています。展示スペースはゾーン1「人類の旅」、ゾーン2「電子の旅」、ゾーン3「KEKの旅」と3つに分けられています。今年9月の一般公開から、ゾーン3にギャラリー「KEK 過去から未来へ」を新たにオープンしました。

image_01.jpg大型ワイセンベルクカメラ

「KEKができて、40年がたちました。」と、このギャラリーの展示企画をコーディネートした加速器を研究する菊谷英司准教授。「史料室や研究所の広報関連の方々と協力して開設しました。研究を振り返ることができる装置を各研究所から集め、展示したのです。」

ギャラリーに入ってすぐ目に入るのが、「大型ワイセンベルクカメラ」の実物です。「この装置は放射光を用いてタンパク質の構造を精密に調べるために、1980年代後半に製作されました。2009年にノーベル化学賞を受賞されたアダ・ヨナット博士は、いちはやくこの価値を見抜き、本器を用いてフォトンファクトリーで実験を行いました。」

image_02.jpg泡箱装置用巨大レンズ

その左には、陽子加速器を用いた実験で、1970年代後半から1980年代にかけて活躍した「1m泡箱装置用巨大レンズ」があります。「泡箱装置の本体は、上野の国立科学博物館で展示されています。低温で高圧の液体水素に、加速器から作られた粒子を通過させ、粒子の筋道を泡として記録することで、粒子の反応を研究しました。このレンズは高圧に耐えられるように、厚さが10センチほどあります。」

更にその左には、KEKB加速器の性能を飛躍的に向上させた「KEKBソレノイド巻線機」が展示されています。KEKB加速器の陽電子リングでは、ビームに悪い影響を与える電子の雲をビームに近づけないように、ソレノイドコイルをビームパイプに巻く処置を行いました。「既につながっているビームパイプにどうやって巻くのか。そのため、半割のボビンをビームパイプにとりつけ、それに導線を自動的に巻きつけていく装置を開発しました。」

image_03_01_358.jpg コイル用のボビンを手に語る菊谷准教授
image_03_02_358.jpg 当時の研究者はこの巻線機で約1万個のコイルを製作した。

ギャラリーには、過去に活躍した加速器や測定器の模型も置かれています。展示室の左手奥には1976年に完成した当時の陽子加速器の200分の1のジオラマがあります。「順々に低いエネルギーの加速器から中程度のエネルギーへ、そして最高エネルギー120億電子ボルトまで4段階に順々に加速していくシステムをご覧いただけます。見学で最近人気の前段加速器の部分も詳細に作り込まれていますよ。」

image_04_01.jpg トパーズ測定器のアクリル製モックアップ

その手前には、トリスタン加速器時代のトパーズ測定器のアクリル製モックアップが展示されています。現在改造中のKEKB加速器のトンネルは、1995年まで稼働していたトリスタン加速器のトンネルとして建設されたものです。トリスタン加速器は1986年に電子と陽電子を当時の世界最高エネルギーで衝突させて素粒子の実験を行うことを目的として始まりました。4か所の衝突場所にそれぞれ4つの測定器が置かれ、データを収集しました。トパーズ測定器は、その4つの測定器のうちのひとつで、現在Belle測定器がおかれている筑波実験室にありました。「これは、展示目的の模型では、ないんですよ。当時はまだ3次元キャドシステムで現在のようなよいものがなかったので、模型を組んでみて重い構造物をどのように組み立てるかの計画を立てていたのです。」

image_04_02.jpg トリスタンでの実験成功を記念した寄せ書き

トパーズ測定器のモックアップの背面の壁には、トリスタン加速器による最初の素粒子反応が確認できた時の寄せ書きの写しが掲げてあります。「当時のKEKの所長である、西川哲治氏が中央にお祝いの言葉を記し、そのまわりに、集まった人々が記名していきました。トリスタン実験の関係者だけでなく、理論物理学者や、事務職員も記名しました。ノーベル物理学賞をとられた小林博士も名前を書かれています。探してみてください。」

その左、ギャラリーの一番奥には、東京大学レゴ部製作のかわいい「Belle II測定器レゴ模型」があります。ヘルメットをかぶって実験をする研究者の人形が何体か作業をしています。

image_05.jpg Belle II測定器レゴ模型

また、日本初のホームページを発信した計算機(1992年)や、1980年から2006年まで使われていた陽子加速器から発生させた中性子を光ファイバーのように実験装置に導く「中性子ガイド管」、素粒子反応のデータを取得し、あるいは加速器を制御するために、計算機と各種電子デバイスを接続するための「カマックシステム」(1980年当時)なども展示されています。

大型ハドロンコライダー(LHC)が登場するダン・ブラウンの小説「天使と悪魔」では、スイス・ジュネーブにある研究所欧州合同原子核研究機関(CERN)でフリスビーに興じるノーベル賞学者シャルパック博士が描かれています。そのノーベル賞受賞の理由となったのが、素粒子の通った跡を精密に測定する装置「多線式比例計数管」の発明でした。ギャラリーには、KEKで実際に使用していた多線式比例計数管の展示もあります。

image_06.jpg 多線式比例計数管

その他にも、KEKの設立母体となった東京大学の原子核研究所を設立するにあたって、朝永振一郎博士が書かれた手紙の直筆草稿(写し)など、歴史的に貴重な資料も展示されています。KEKにお越しの際には、このギャラリーにも是非お立ち寄りください。

関連サイト

史料室
コミュニケーションプラザ
放射光加速器
放射光科学研究施設 フォトンファクトリー
構造生物学
12GeV陽子加速器での実験施設
トリスタン実験
KEKBリング
トリスタン計画報告書

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