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パルス中性子ミュオン発生40周年記念シンポジウムをオンライン開催しました

物構研トピックス
2020年12月28日

12月23日、「パルス中性子ミュオン発生40周年記念シンポジウム」をオンラインで開催しました。
今から40年前の1980年、6月18日にKEK ブースター利用施設(BSF)の中性子散乱実験施設(KENS施設)で世界最初の本格的核破砕パルス中性子源が運転を開始しました。その翌月12日に、KENS施設の隣にあった東京大学附属中間子科学実験施設(UT-MSL)で世界初のパルスミュオンビームが発生しました。UT-MSLは1997年4月にKEKの中間子科学研究施設(KEK-MSL施設)となり、その後大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)の建設に伴い、KENS施設とMSL施設は2006年3月に25年の歴史の幕を閉じました。
今回のシンポジウムはウェビナーを用いたオンライン開催だったことで海外からの参加者もあり、最も多いときで125名の参加がありました。

シンポジウムプログラム
2020年12月23日開催 パルス中性子ミュオン発生40周年記念オンラインシンポジウム


シンポジウムは、物構研 小杉 信博 所長の、KENS・MSL両施設の建設、MLF建設時の熱気を若い世代に伝えるシンポジウムになることを期待します、という挨拶で始まりました。講演は、活躍した時代が古い順に中性子とミュオンの研究者が交互に登壇しました。

物構研 小杉 信博 所長
遠藤 康夫 氏
永嶺 謙忠 氏(手前右)

午前は「つくばキャンパスパルス中性子ミュオンの創成期」と題したセッションで、まず遠藤 康夫 東北大学名誉教授からKENSにおける散乱研究活動の歴史を概観する講演がありました。遠藤先生は、日本で初めてパルス中性子源の開発に成功した東北大学理学研究科附属原子核理学研究施設(核理研)出身で、KENS施設の建設時代を知るKENS初期リーダーの一人です。
続いて、ミュオン科学研究系の永嶺 謙忠 名誉教授から、MSLの施設建設と成果について講演がありました。建設直後には、πμ崩壊系用超電導ソレノイドと超臨界He冷却系に多くの時間を割き、中間子の初ビームと決まっていた時刻の数時間前にやっと完成したことを語りました。また、1984年に筑波大学の白川 英樹 教授(現在は名誉教授)がポリアセチレンの実験に参加したときは、後にノーベル賞をとる方とは思わず気軽に大量のサンプル作成を依頼し、シャーレにびっしりのサンプルを作ってもらったという逸話などを披露しました。

池田 進 氏
石田 勝彦 氏
鬼柳 善明 氏

次に、KENS施設の建設とパルス中性子源を用いた研究推進において中心的な役割を果たした池田 進 名誉教授(現:KEKオープンイノベーション推進部)から、KENSからJ-PARCへの移行時に進められた、特徴的な4つの取組について講演がありました。その4つの取組とは、「KEK-大学連携プラットフォーム計画」、「ノアの方舟計画」、「ニューフロンティア計画」、「つくばスパイラル計画」で、KENSの科学技術を高度化してJ-PARCへの移行を円滑に進め、また、その後のKEKのTIA参画やKEKオープンイノベーション推進部創設にも影響を与えたとのことです。
続いて講演した理化学研究所の石田 勝彦 氏は、理研(理化学研究所)RAL(英国ラザフォードアップルトン研究所)のミュオン科学の研究者です。UT-MSLの初ビームと1994年の理研RALの初ビームに立ち会ったと言い、KENSMSLの40年は自身の研究者人生とぴったり重なると語りました。
次に登壇した鬼柳 善明 名古屋大学教授は、日本におけるパルス中性子源の歴史と将来への期待について話し、その中で、J-PARCにおいて世界で初めて開発され現在は世界標準となっている「結合型減速材(カップルドモデレーター)」について触れました。結合型減速材とはエネルギーの高い「熱中性子」を減速し、実験用の「冷中性子」をつくる装置です。

新井 正敏 氏
山崎 敏光 氏
金谷 利治 氏

お昼休みを挟んで「J-PARCへ至る道」と題したセッションが始まり、ESS(欧州核破砕中性子源)所属でスウェーデン在住の新井 正敏 名誉教授が登場しました。日本との時差は8時間あり、早朝の講演となりました。新井氏は、つくばKENSの時代からJ-PARC MLF建設に至った経緯と、J-PARC MLFでの装置建設やサイエンスを話しました。J-PARCは何もないところから始まったが建設は成功したんじゃないか、決して一人でできるものではなく、大勢の献身的な努力と協力があった、と振り返りました。
続いて登壇した山崎 敏光 東京大学名誉教授は、1978年にKEK内に創設された東京大学附属中間子科学実験施設(UT-MSL)の初代施設長で、ミュオンスピン回転緩和法(μSR)など中間子科学の開拓者です。講演では現在の素粒子科学研究について解説しました。
次に、昨年度までJ-PARC MLFディビジョン長を務めた金谷 利治 京都大学名誉教授が、MLF中性子実験施設のグランドデザインについて語りました。中性子科学コミュニティとの議論によるMLFの全体構想を紹介した後、MLFでのビームラインごとの装置建設と成果発表の一覧を示して、各種委員会で高く評価されていることを紹介しました。グランドデザインの運用における問題についても触れました。

三宅 康博 氏
大友 季哉 氏
物構研 瀬戸 秀紀 副所長

休憩を挟んで、午後の後半は現在現役で活躍している教授陣が登壇しました。ミュオン科学研究系の三宅 康博 特別教授は、MLFのミュオン科学研究施設(MUSE)の建設について振り返り、将来計画に対する提案をしました。
今年度からMLFディビジョン長を務める中性子科学研究系の大友 季哉 教授は、MLFの現在と未来と題して、施設共用の現状を解説した後、物構研や中性子に限らずMLFで行われているサイエンスを網羅的に紹介しました。さらにJ-PARCでも改革が目白押しであること、持続的な運営体制の構築が必要だとの考えを示しました。これまでの講演でも話題になっていた施設運営を担う人材育成の問題について永嶺名誉教授が発言し、「今日は40年のお祝いだが、もう後40年経ったとき、受け継いでハードも含めた科学研究を推進する人材が育っているか?」という懸念を示しました。大友ディビジョン長は単純にこれという秘策はないが「働いている内部の人が楽しそうにしているのが大事だと思う」と答えました。
最後に、このシンポジウムの発起人である物構研の瀬戸 秀紀 副所長が「当初の予定ではこのシンポジウムで現役世代の人にも話をしてもらい、中性子ミュオン分野のつくばを知る世代とMLF世代との交流の場も設ける予定でした。 2021年はKEKの50周年で、11月に記念式典も予定されているので、その際にはぜひ集まりましょう。」と挨拶しました。

このシンポジウムの講演資料や、録画データは、追ってウェブ上で公開する予定です。

シンポジウムの登壇者とチェアマン(順不同)
最上段左から遠藤 康夫 氏、瀬戸 秀紀 氏、三宅 康博 氏、小杉 信博 氏
金谷 利治 氏、新井 正敏 氏、石田 勝彦 氏、永嶺 謙忠 氏
中性子研究主幹 伊藤 晋一 氏、ミュオン研究主幹 下村 浩一郎 氏、大友 季哉 氏、池田 進 氏
鬼柳 善明 氏、下村 浩一郎 氏(写真)、山崎 敏光 氏

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プログラム

12/23(水)

9:20-9:30 開会あいさつ 小杉 信博
パルス中性子ミュオンの創成期
9:30-10:00 KENS 創設とパルス中性子利用の歴史 遠藤 康夫
10:00-10:30 中間子科学研究施設の建設と成果 永嶺 謙忠
10:30-11:00 KENSからJ-PARCへ 池田 進
11:00-11:10 休憩
11:10-11:40 理研RALとJ-PARC 石田 勝彦
11:40-12:10 パルス中性子源の開発 鬼柳 善明
12:10-13:30 昼食
J-PARCへ至る道
13:30-14:00 MLFの建設・運転に至る道のり ~国内外の協力の重要性~ 新井 正敏
14:00-14:30 (ミュオン科学の創成期) 山崎 敏光
14:30-15:00 中性子実験装置のグランドデザイン 金谷 利治
15:00-15:10 休憩
15:10-15:40 J-PARC MUSEの建設 三宅 康博
15:40-16:10 MLFの現在と未来 大友 季哉
閉会